鳴海のレンタルと賭け
生徒会連絡調整会議は、県の主立った高校十校が集まって、高校生を取り巻く諸問題について意見を述べあうものだ。
今回の議題は、「高校生の携帯電話の利用とマナーについて」と「高校生の飲酒と喫煙」といったものだ。
この会議が、いつからあるのか、誰の発案によるものか、成果があるのかないのか、県下に多数高校があるのに何故この十校が集まるのか、会長である鳴海にもよく分からない。
だが、現実にそういう会議が開催される以上、これを利用しない手はない。
製造は、長瀬達に任せるとして、残りのメンバーは、販売に精を出すことにした。
薬品の使用説明書をコピーし、800個の小瓶を電車でK市まで買いに行く。この町でそんなものを購入したら、それこそ面が割れて、とんでもないことになりかねない。
長瀬と山本は寝食を忘れて製造に励んだ。
授業以外は、理科実験室に籠もりっきりだ。
久保が二人の夕食にコンビニ弁当を買って届けたので、山本が無茶苦茶頑張った。
「要は、志気の問題なんだ。ヨシや山本が気持ちよく頑張ろうって気分になることが大事なんだ」
早川が、得意そうに言った。
50セットできる都度、早川から一同に呼び出しがかかって集まる。
小瓶に入れ、ラベルを貼り、使用説明書とともに1セットごとにビニールの袋に入れる。
これをAZの部室でやった。
できた製品の保管場所は、悩んだ末に、クラブ長屋の隣室である元鉄道研究会の部屋に置いた。
ここで、以前、山本が発明した万能鍵、つまり、どんな鍵でも開けることができる鍵――ただし、最近流行の電子錠には使えないので、売れなかった――が役に立った。
元鉄道研究会の部屋に鍵を掛けただけではなく、乱雑に資料や材料を置きっぱなしにしているように見せかける。
更に、毎日、森田が、AZの部室で執筆作業に当たり、不審な人物、特に教師が近づかないように監視した。
万一、安田先生あたりが、元鉄道研の部室へ入ろうとしたら、何とか口実を付けて入らせないようにしろ、というのが、森田に与えられた使命だ。
何度か、小瓶に詰め込む作業をしたが、だんだん鳴海が欠席するようになった。
これには、森田が文句を言った。
あいつだけ、部室の留守番からも、小瓶に詰め込む作業からも、免除されているのは狡い、というのだ。
これを聞いた早川が、この人にしては珍しく真面目に頭を下げた。
「光太郎、すまない。
この前、体育教官室(体育館に入ってすぐ左、更衣室の手前にあり、体育教師の詰め所になっている。紀夫センセは、よくここで生徒にコーヒー、それも、本格ドリップのをご馳走してくれる)で紀夫センセにコーヒーをご馳走になったんだけど、その時、紀夫センセに頼まれたんだ。
イッキを、生徒会やAZでこき使ってくれるなってな」
「あいつ、紀夫センセまで使ってさぼったのか?」
憤慨する森田を早川がなだめた。
「いや、善良なAZは教師と無用のトラブルを起こさない方針なんだ」
そんな方針いつできたんだ?
「だけど、紀夫センセがあそこまで本気なんだ。
これは、ひょっとするかも知れない。
だから、了解してきた。
つまり、イッキを紀夫センセ――つまり、バスケ部――にレンタルしたんだ」
いくら時々助っ人を頼まれる関係だと言っても、それはないだろう。
紀夫センセと早川は、鳴海の意思を無視して、勝手にバスケ部の助っ人にしたのだ。
そして、現在進行形で部活を強制していた。
鬼だ。
森田は、軽い調子で説明する早川に唖然とした。
まあ、重く説明されてもどうしようもないのだが、想像以上に非常識な扱いで、つくづく鳴海を気の毒に思った。
早川は、更に続けて言った。
「単にレンタルして終わるんじゃ、芸がない。
折角の機会だ。県大会で優勝できるかどうかの賭けを企画して小金を稼ごう。
胴元は、絶対儲かるからな。
光太郎、お前やってくれ」
森田は、唖然とした。
どこをどう突けばこういう展開になるのだろう?
結局、仕事がまた一つ増えてしまった。
項垂れる森田に、久保が微笑んで、「忙しいのに、大変ね。私にできることなら、何でも言って。手伝うから」と申し出たので、森田が奮起した。
久保が絡むと頑張ってしまう自分が恨めしい。
だが、早川にも頼まれたし、久保にも認められたのだ。
やるっきゃない。
森田は、久保の手を借りて賭けを始めた。
県大会の優勝だって?確か十年以上前にあったが、今のバスケ部じゃ無理じゃないか?
いや、紀夫センセは本気だ。今年は、もしかすると、もしかするかもしれない、等々、大いに盛り上がる。
森田は、執筆作業も中断して、賭に没頭した。
久保と一緒にする仕事だ。否が応でも張り切った。張り切らざるを得ないじゃないか。
久保を好きな男子は、良いように早川にこき使われることになります。




