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AZ研究会は行く  作者: 椿 雅香
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鳴海の敗北

「ところで、ヨシ、原価はいくらぐらいだ?

 それと、どのぐらいの時間で、何セットぐらい作れるんだ?」

「原価は、山本が今、計算している。

 だいたい、50セットが1ロットだ。

 時間は、50セットまでなら2日でできるんだが、それ以上になると、山本と相談しないと正確なところは、分からねえ」


 早川の問いに長瀬が答えると、鳴海が尋ねた。


「山本主体の作品なのか?」


「ていうか、だいたい、俺が化学、山本が物理の担当なんだ。

 これは、屈折とか、偏光とか物理の理論が多いから、山本の力が大きい。でも、去年の冬頃から、俺が企画して共同で作ったことは確かだ」


「で、その山本は、協力してくれるのかい?」

 森田は興味津々だ。


「もちろんだ。


 だいたい、発明家ってのは、自分の作った製品をたくさんの人に使ってもらうことに喜びを感じるものなんだ。

 だけど、これは、山本自身じゃ売れない。

 生徒指導にばれたら一発で停学か退学の代物だ。AZが危険を回避しつつ売ってくれるのは、ありがたいと思ってる。


 だけど、セイ。商品が売れた場合、AZと発明者――この場合は俺と山本なんだが――の取り分はどうなるんだ?

 いくらなんでも、ただ働きはねえだろ?」


「そうだな。取り分を純利益の二割と言うことで許してくれないかな。

 こっちは、売るために危険な橋を渡らなければならないし、危険回避のための経費も見込まれるから」


「二割……ね。セイ、どこからその数字が出てきたの?」


 長瀬と早川の会話に久保が口をはさむ。


「何となく、このくらいなら、ヨシも納得してくれるかな、という気がしたんだ。

 ……駄目かな?」


 早川が珍しく弱気である。上目遣いで、長瀬を見る。

 こうなると、歩く非常識だって可愛く見えるから始末が悪い。


 OKと告げた勇者は、鳴海だった。彼は、開き直って半ばやけくそだ。


「良いんじゃないか。

 生徒会の予算でも、意味もなく八掛けってのもある。

 この場合、山本とヨシは、発明したが売ることはできない。

 下手に売ると、生徒指導に睨まれて、理科実験室を使う権利も奪われかねない。

 その点、AZが危険を回避しつつ、山本やヨシの名前を出さずに売れば、利益だけを受け取ることができる。


 それに、セイの最初の考えでは、特許も取るんだろ。その手続きはAZがして、費用もAZが出すことになる。八割ぐらいAZがもらっても問題ないと思う。

 特許が売れたら、その利益をAZとヨシ達で折半するってことにしておけば、発明者も納得してくれるだろう」


 結果として、太鼓判を押したことになった。


 不本意だと顔に書いてあるが、誰も気にしない。

 

 久保が、「ところで、売るのは校内だけ?」と訊いた。


 彼女は、あちこち行商に行きたいのだ。

 少なくとも、あちこちの文房具屋に飛び込みでセールスに行きたいと言った。


 早川が、「いや、行商は、面が割れて後で問題が起きるから止めておこう。

 特に、リョウコやイッキは目立つ(『お前ぇが一番目立ってるぜ』と、長瀬が言ったが無視された)。

 その代わり、……」と、鳴海を見て、この人にしては珍しく、可愛く微笑んだ。



 目の強さが薄まって、抱きしめたくなるような可愛らしさだ。

 

 もちろん、そんな見てくれに騙される馬鹿はいないが。




「イッキ、県の生徒会連絡調整会議って、今年は何時いつだ?」


「確か、中間の後ぐらいだったぞ。それがどうした?」


「そこで売ってくれないか?」


 はあ?


 

 鳴海の心臓が止まった。

 いや、止まっちゃいないが、本人には止まったかのように思えた。

 

 息もできないほどの衝撃(!)だった。



「無茶だ!生徒会担当の先生もいるんだぞ!」

「議題が終わって、懇談の時、先生は抜けるだろ?その時で良いから」

 早川は気にもしない。


「その時で良いって、こんなもの売って、問題にならないか?いや、絶対問題になる!」


「そりゃ、ばれたら問題になるさ。でも、ばれなきゃ良いんだ。

 だいたい、学校というところは、ばれて証拠があったら問題になるけど、証拠云々以前に、ばれなきゃ問題にならないシステムになっているんだ。

 しかも、立証責任は学校側にあるだぞ。

 民事訴訟でも、挙証責任は敗訴に通じるんだ。

 ことを証明するのは難しいんだ。こちらが、知らぬ存ぜずで通せば、まず、大丈夫だ」




 お前、それ、本気で言ってるのか?


 

 鳴海は頭を抱えた。


 いくら久保とご一緒できるからって、こんなとんでもないクラブに巻き込まれてしまったことを激しく後悔した。

 まさしく、後悔先に立たずだ。


 

 だが、当の久保は感嘆の面もちで早川を見ているのだ。

 目がハートマークになっている。


 長瀬は嬉しそうで論外だし、一同の中で一番常識がある森田は成り行きに付いていけないのだろう、唖然としているだけで、援護射撃は期待できない。




 完全に鳴海の負けだった。




日時  5月11日(水) 午後3時30分~5時

場所  歴研部室

出席者 AZ一同

議題  AZの合理的な獲得方法について、以下の三点について検討するが、高校

   生として、適切かどうかの問題もあるので、今後の検討を要す。

  ① AZをヒントに小説を書き『ネット小説大賞』に応募する。ただし、学

   校、個人が特定できないようにする。

  ② 文化祭で早川、久保、鳴海が握手会をして、稼ぐ。

  ③ 予算のないAZのために募金活動をする。

記入者 久保




書いていて、鳴海くんが気の毒になります。

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