AZ研究会のテスト対策
呆然自失の鳴海と森田が復活する前に、早川がその先へ進むべく爆弾を落とした。
「だけどな、わざわざ机に自分で書きこむのも面倒だろう?だいたい、試験のときは座席だって変わるし。
だから、公式とか、年号とか、スペルとか、絶対必要なものを黒板か天井に書きこめないだろうか?」
「それって、サービスってこと?」
「うん。そうだけど」
「でもって、自分では、眼鏡にA薬を塗るだけってことになるわけね?
そりゃあ、買った人は楽できて良いでしょうけど、私達で全ての教室にそんなことするのは大変よ?」
久保が、一つ一つ疑問点を明らかにしていく。
「ヨシ、これって、光に反応して字が見えたり消えたりするんだろ?」
「ああ、そうだ。光に当てると肉眼では見えなくなるんだ。で、A薬を塗った眼鏡で見えるって寸法だ。
ただ、光を当てすぎると、字自体が薄れてしまってA薬を塗った眼鏡でも見えなくなるっていう弱点があって、その辺が難しいんだ」
早川の目がキラリと光る。
「じゃあ、例えば、黒板にB薬を塗って、パワーポイントで光を当てる。そうすりゃ、字の部分以外が光がたくさん当たってるから、A薬の眼鏡でも見えなくなって、字の部分だけ見えるってことにならないか?」
どういうことだ?
一同、唖然して早川の顔を凝視し、次の瞬間、長瀬の答えを期待した。
「理論上は……そうなる。
だが……お前、楽しようとしてないか?」
長瀬の指摘に、早川は破顔した。
「その通り!
そうやって、公式、年号、スペルを黒板に書いておけば、最低限のサービスになると思わないか?
というか、そのぐらいのサービスはすべきじゃないだろうか?」
一同、その斜め上の発想に付いていけない。
『サービス』という言葉の意味をはき違えているとしか言いようがない。
「そりゃあ、できるだろうが……。
そんなことしたら、フェアじゃない。
第一、A薬を使わない生徒が気の毒だ。
A薬の眼鏡のヤツ等は普通に黒板の答えを見ているのに、自分だけ見えないってことになるんだから」
鳴海が真面目に心配すると、歩く非常識は平然と答えた。
「だから、みんなウチの薬を買わなきゃならなくなるんだ。めでたしめでたしだ」
長瀬がピースサイン(ウインク付き)で了承した。
この集団は、おかしい。
鳴海は断固反対だった。
だが、久保の賞賛に満ちた眼差しに反対できるわけもない。
それでも、鳴海は最後の抵抗を試みた。
一応、生徒会会長なのだ。こんな胡散臭いクラブのメンバーだなんて、黒歴史にしかならない。
「せめて、一年の時、早川がやった中間期末の過去問の販売程度に止めた方が良い!」
「あれ、良かったねえ。
大体、地理の大西先生って、毎年似たような問題出すから、過去問と同じ問題が七割近くあったでしょ。ボク、あれのおかげで、地理で80点とれたんだ。
セイ、今年もやってくれるんでしょ?」
森田の呑気な発言に早川が答えた。
「もちろん。
今年は、一年と二年に売れる。去年のうちに、問題と模範解答をGETしてあるから、コピーして売るだけで良いんだ」
「去年、地理の平均点が例年より15点も上がったって、大西先生が頭抱えてたから、今年は、上手く行かないんじゃないか?」
言い出しっぺんのくせに、いざとなったら尻込みするのが、鳴海の悪い癖だ。
「大丈夫。科目によって問題になりそうなところって、決まってるんだ。だから、大西先生がジタバタしても、どうしようもない。まさか、平均点を下げるため、とっぴもない問題出すわけにもいかないし」
そう言いながら、涼しい顔で決断した。
「それはそれとして、ヨシと山本の薬も売ろう。
サービスとして、黒板に答えを書きこむ。
とりあえず、最低限の解答を黒板に書いて、後は、個々人の努力次第でどうとでも使ってもらう。
ただ、イッキの言うように、問題は売り方なんだ。
校内については考えがあるんだ」
と、声を低めて眼をきらめかせる。
一同、集まって前屈みになる。ぼそぼそと、小さな声で早川が提案すると、
久保が、「セイ、すごいわ。あなたって天才ね」
森田が、「こんなこと、よく考えつくなあ」
鳴海が、「無茶苦茶だが、グッドアイデアだと、言っておく。しかし、綱渡りだぞ」
長瀬は、「お前ぇにしちゃ、無難なアイデアじゃねえか」と、言った。
鳴海は、これが無難なら無難じゃないのは、どういうのだ、と頭を抱えた。
常識人の鳴海は、AZの面々に振り回されることになります。




