AZの儲け方(森田、鳴海、久保の提案)
連休を挟んで、5月11日に第二回の例会が開かれ、AZの獲得方法が検討された。
森田は、AZの活動を参考にしてネット小説を書き、ネット小説大賞に応募したいと、申し出て了承された。
大賞百万円。
AZの活動を小説にすれば、大賞なんか軽く行けそうだとして、一同、どよめいた。
ただし、個人名や学校名が特定できないようにしてほしいと、釘を刺すのを忘れなかった。
これから、良くも悪くも非常識な活動を行おうとしているのだ。
「光太郎にあることないこと書かれたら、恥ずかしくて道も歩けない」と言うのが、全員を代表した鳴海の弁だった。
長瀬が、「この物語は、フィクションであり、登場する個人及び学校は現実のものと関係ありません」って例の注意書きを付けといてくれと、頼んだ。
鳴海が、文化祭で、久保と早川を使った金儲けをしないか、と持ちかけた。
例えば、二人と一緒に写真を撮ったり、握手したりするのに金を取れば良いと言うのだ。
長瀬と森田は、俄然乗り気になった。
「良いね。久保さんと握手できるなら、僕、千円でも出す」と、森田が身を乗り出すと、
「あのな、光太郎。リョウコとワタシの握手会で金儲けができるなら、イッキだって立派に女子相手に金儲けができるんだぞ。
それに、公序良俗に反しないのか?風俗とどこが違うんだ?あんまり変わらないと思うぞ」
自分が金儲けのダシにされることに、早川が難色を示したが、長い付き合いの長瀬に却下された。
長瀬も大乗り気だ。
「大いに違うね。風俗は性的なサービスで金儲けするが、握手会なら手を握るだけだ。
イッキが女子相手に商売できるってのは、良いな。
やってくれ。我が校が誇る美男美女だ。絶対儲かるぞ」
「うん。良いね。イッキが女子相手というのは、気が付かなかった」
森田も大喜びだ。
長瀬と森田だけ盛り上がるが、客寄せパンダに使われる早川と久保は、苦い顔だ。
「ロクなこと考えないヤツだ。お前、自分が生徒会長で、文化祭の出し物に苦労しているからって、他人を巻きこんだな」
早川が恨めしそうに言うと、鳴海も憮然とした。
「俺も、今、巻きこまれた」
「自業自得だ。ま、文化祭は、先の話だ。もっと良い案が浮かぶだろう。
これは、一応、そう言う案が出たと言うことで、お終い」
早川がやけくそになってまとめて、今後の検討事項とされた。
彼女としては、とっとと忘れたい話題なのだ。
久保のAZ獲得方法は、いかにも久保らしいものだった。
「セイと私が、AZの募金箱を持って、生徒玄関なんかに立つんです。
ご存じのように、AZは、今年度から発足していて予算がありません。活動資金の寄付を募るんです。
男の子たちは、美人が好きですから、一年の中野さんや大川さんあたりもお願いして、二、三日募金をすれば、そこそこのお金が貯まると思います。
中野さんや大川さんは、後で、鳴海くんがデートに誘えば、問題ありません」と、澄まして言った。
久保が早川と会ったのは、鳴海と同じく入学式の日だ。
久保は、幼稚園の頃から美貌を謳われ、小学校の高学年の頃には降るような告白を受けた。
久保がいると、周りの子はちやほやしたり、ちらちら見たりしたが、それはそれで負担に感じるものだった。
そんな日々にうんざりしていた久保が、高校の入学式で、この世のものとは思えないほど美しい少年を発見した。
光源氏もかくやと思った。
世の中、上には上がいる。
久保は、単純に感動して、その圧倒的な美しさに見とれた。
知らない人にちらちら見られるのには慣れている久保も、自分が知らない少年をちらちら眺めることになるとは、思いも掛けないものだった。
その少年と同じクラスだということで、何となく嬉しくてときめいた。
最初のホームルームで、その少年が、実は女だったということを知った。
驚いたってものじゃなかった。
早川と名乗ったその声は、低めではあるが、確かに女のものだった。
しかし、早川は、周りの驚きも意に介さず、口の端だけで笑い、逆に周りを見回した。
その堂々とした態度に圧倒された。
ホームルームで久保が自己紹介すると、想像通り、男達がどよめいた。
しかし、ここで、早川が意外な反応を示した。
久保を真正面から見つめて、にこりと笑ったのだ。
笑顔の中に、久保の容姿に対する賞賛があった。
久保は、一瞬、早川が男じゃないかと思った。
気を付けて見ると、早川には、友人が多いのだが、そのほとんどが男子だった。
そして、まるで男同士のような付き合いをしていた。
久保はJRで通学している。毎朝、駅を出ると、何故か早川に会う。
この種の待ち伏せは、よくあることなので、気にも留めなかった。
しかし、ここでも、早川は、意外な行動に出た。「おはよう久保さん、今日もきれいだね」と、あの力強い視線で見つめてくるのだ。
目が笑ってなかったら、怒ってるんじゃないかと思うほどの鋭さだ。
怖いけれど眼が離せない。
男だったら好きになっている、と思った。
早川は、長瀬と一緒の時が多いが、二人は単純に久保の美しさに感嘆している。
何故か調子が狂った。あれは、男じゃないかと、本気で思った。
女に恋をすることがあるとすれば、こういうことなのだろう。
私は百合じゃない。と、自分ぶ言い聞かせなければならないほどだった。
早川のやることは興味深い。
生徒会を始め、クラスのイベントごとにも、表立った活動はしない。
裏で、フィクサーを気取っているのだ。
そのやり方は、無茶苦茶だった。
ただ、一貫して義に篤く情に脆い。
自分で意味があること思うことはするが、意味がないこと思うことは、例え教師の指示でもしない。
頼ってくる人には親切だが、高圧的に出る人には反抗する。
立ててくれる人には丁寧に接するが、見下す人には口もきかない。それどころか、邪魔さえする。
傍若無人で、優しいのだ。
気分によって仕事を選び、気が乗らなければ何もしない。
早川に何かを頼むときは簡単だ。泣き落とせば良いのだ。
指図すると、やってくれない。
つくづく、面白い人だと思った。
そうこうするうちに、体育祭になり、久保は早川とともにクラス対抗リレーの選手に選ばれた。
気が付くと、久保は早川のガールフレンドになっていた。
今では、久保は早川のことを『セイ』と呼び、早川は久保のことを『リョウコ』と呼んでいる。
久保は、早川とは親友です。でも、百合じゃありません。




