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がめついパイロット

がめついパイロット 聖剣の破片

作者: 電子紙魚

シリーズの最終話になります。

魔法を使うシーンがほとんどないですね。

 ボリスはドワーフらしく小槌を軽々と振って親方の相槌を務めていた。

 15になったばかりだが、顔は髭だらけで髪の毛と同じに赤茶けていた。

 親方のダンもドワーフで親子でもないのによく似ていた。

 真っ赤に焼けた鉄の塊が剣になっていく。

 親方が完成した剣を火にかざした。「今一つじゃな。やはり鉄ではこれが限界か」

「親方、試さないのですか?」弟子の問いに、「いまさらじゃな」

 せっかく作った剣を土間に投げ捨てた。

 ボリスが拾って表の店に運ぶ。納得がいかなくとも売り物にはなる。

 それだけダンの腕は優れていた。この地方に限ってと条件が付いているが。

 ボリスが弟子入りして3年になっていた。わざわざ遠くからやってきたのは

父親がダンの弟弟子だったからだ。鍛冶師ではあるがちょっと変わっていた。

 1日の作業が終わってボリスは日課になっている素振りをした。

 一心不乱に剣を振る。父親の持論は剣を打つものは剣を扱えないといけないというものだった。

 ダンは槌を握る前から剣を握っていた。槌よりも剣になじんでいた。

 剣だけに限れば父親の評価も悪くない。問題はその他の鉄器だった。

 鍛冶師は剣だけではなく槍の穂先といった武器や、鉈や包丁といったものも作る。

 剣重視のためか剣以外の出来はお粗末だった。

 剣の製造だけで食べていくのは難しい。それに修行するのなら外の方がと

母親の意向で遠く離れた地にやってきた。

 それでも幼いころからの習慣はやめないというかやめられなかった。

 ダンもまたやめさせようとはしなかった。

 以前は何人もの弟子がいたが、限界を感じてからは取っていない。

 弟弟子の頼みだから弟子にした。ボリスが最後になる。

 ジャンは男爵と会っていた。仲介屋の不手際もあり酒場の2階に呼び出されていた。

 男爵が自宅に呼ばなかったのは建物がみすぼらしいからだった。

 とても館とは言えない。自分のものですらない。借家だった。

 自分から商人ギルドに赴くのはメンツもあってできない。

 それで裏から脅して2階を借り切ったのだった。

 男爵は椅子に座っているがジャンに椅子はなかった。

 男爵はいらだっていた。「お前は案内できないというのだな」

「金貨千枚を払っていただければご案内いたします」

 慇懃に対応しているが、顔には無理でしょうと書かれていた。

「アイオス侯爵家に連なる私の頼みが聞けないというのか」

「あなた様は侯爵でもなければ跡継ぎというわけではございませんでしょう。

それに侯爵直々においでになってもわたくしの返答は変わりません。金貨10枚で目的の場所までの

地図を用意いたしましょう。それが精いっぱいの譲歩でございます」

「それが本物であるという証があるのか?」

 男爵は背もたれから背中を離した。もうひと声を欲していた。

 ジャンはやれやれと肩をすくめた。「なかなか交渉がお上手です。無料で差し上げましょう。

でもあなた様には無理ではないかとご忠告申し上げておきます」

 ジャンは消えたが代わりに1枚の地図が残された。

 男爵は地図を見ながら歩いていた。視線は地図と周囲を行ったり来たりしていた。

 森の中だった。道はないが、地図にある目印を探していた。

 1人きりだった。家臣を雇う金はない。結婚もしていない。

 貧乏なくせにプライドだけは高いので誰も相手にしない。

 聖剣を手に入れ、活躍すれば栄光の日々がやってくる。

 腰には1振りの剣が下がっていた。売り払った家宝の代わりの安物だった。

 ガサゴソと物音がした。ビクッとして目を走らせる。野鼠で安心した。

 その野鼠がとびかかってきた。剣を無茶苦茶に振ると偶偶当たった。

 野鼠がはじき飛ばされ草の中に消えていく。

 ガッツポーズをした。剣を使ったのは生まれて初めてだった。

 習ったことはない。そんな金はどこにもなかった。

 魔物に遭遇することもなく目的地にたどり着いた。

 転がっていたのは剣の破片だった。ばらばらになっていた。

 地図を握りつぶし丸めて投げつけた。「案内人め。ただだからと偽物をつかませたな。必ず見つけて目にもの見せてくれる」

 来たルートを引き返そうとした。ところが目印がなくなっていた。

 目印以外は目に入っていなかった。森のどこなのか特定できない。

 うろ覚えで歩いた。蛇が枝から落ちてきた。

 必死になって剣を振るう。蛇の胴を撃つが逆に頭が伸びて左腕を噛まれた。

 やがて毒が回りふらふらになった。蛇の腹に消えた。

 ボリスの横幅はダンと同じくらいになっていた。

 大槌を振るっていた。ダンが小槌で相槌を打っている。

 ダンが衰えたとか怪我をしたわけでもなく、ボリスの思い付きを剣にしていた。

 打ち終わって、試し切りをした。薪が一刀のもとに2つになっていた。

「ブラックサーペントの鱗の粉を混ぜると強度ともに粘りがでますね」

 剣をダンに手渡した。「おめーの考えた通りか。いやさすがだな」

 ほめながら、剣を日にかざした。きらきらと反射するものが入っている。

 鉄に魔物の部位を混ぜ込むというのは偶然の産物だった。

 ロックウルフの毛が購入した鉄に付着していた。

 その一部で鉈を打った。すると今まで切れ味の違うものに仕上がった。

 原因がロックウルフの毛だと判明するのに時間がかかった。

 原因がわかるとボリスはすぐに応用した。様々な魔物の部位を集め鉄と混ぜた。

 ボリスが賢明だったのは最初に包丁や鎌といった小型の生活用品や農機具で試したことだった。

 一度混ぜてしまうと分離ができない。失敗すると鉄が無駄になる。

 しかも鉄鉱石ではなくくず鉄を利用したのもよかった。

 同じものでもくず鉄だと質が悪くなる。くず鉄でうまくいったら鉄鉱石にする。

 経験を積むことによってどの魔物のどの部位を混ぜるとよいかがなんとなくわかるようになっていた。

 そのあたりはほとんどかかわっていないダンには理解できないことだった。

 結果だけは明らかなのでここぞという時に使うようになった。

 仕上げた剣はこの地方の貴族からの注文だった。

 反世界王軍に参加するための剣だった。出来は鉄だけよりも上等ではあるが2人ともまだ納得していなかった。

 ダンは腕に自信があるため希少な金属を欲したが、ボリスは腕に不満を持っていた。

 やみくもに作ればよいというわけではない。かといって打たなければさび付いてしまう。

 一番の問題はそれほど売れないため在庫となっていることだった。

 腕がいいので製品がそれなりの値段になってしまう。

 ディスカウントすると他の鍛冶師から苦情が出る。

 棲み分けをしないとやっていけなくなる。

 それでいて腕を磨くためにやたらと作ったため在庫がいっぱいある。

 それなりに愛着があるらしくつぶそうともしない。

 財政は火の車でおかみさんのマーヤが四苦八苦していた。

 魔物の部位を混ぜた刃物は売れたが、在庫品は残ったままだった。

 マーヤがこっそり在庫を処分しようとするとダンが怒る。

 売れ残りを何とかしたいのだが、いざとなると手が止まる。

 時代はそんな甘いことを許してはくれなかった。

 ボリスの生まれ故郷がついに世界王軍に侵略された。

 いち早く逃げたボリスの妹と母親はダンの家にたどり着いたが、父親の消息は不明となった。

 迫りつつある危機で剣や槍の需要が高まった。

 くず鉄も値上がりし入手が難しくなった。

 注文は舞い込んでくる。ダンはなくなく在庫品を熔かした。

 ボリスが材料を混ぜ、武器が作られていく。

 研究の成果は無償で公開され、近隣は兵器工房となっていった。

 仕事が増えれば人も集まる。若手を中心に魔物の部位を混ぜることが流行る。

 同じく混ぜても叩き方や温度によって性質が変化する。

 さすがのボリスもすべてを公開したわけではなかった。

 打ち方は大本となった師匠によって異なっていた。

 ダンと同じ系統の鍛冶師は比較的楽に真似られたが、そうでない鍛冶師は苦労していた。

 ダンがボリスから素材を譲られたとしても強度にむらができたりする。

 ボリスなりの工夫がある。それはいくつも打って得られるものだった。

 同じ材質でよければ打ち直しが可能なので、練習することで慣れていく。

 むらがなくなり質が向上していく。単なる鉄を打っている師よりも良いものが完成する。

 弟子に負けられないダンたち師匠も魔物の部位を混ぜるようになる。

 世界王軍の武器よりも良いものが反世界王軍に普及していった。

 ボリスの鍛冶師としても腕はダンも認めていた。

 魔物の部位のことがなくともほぼ互角になっていた。

 弟子の成長をねたむような狭量ではなかった。

 それなりの腕になったからこそボリスは偶然の産物から新たな材質を作成した。

 ボリスはその先を夢見た。オリハルコンなどの材質を触ったことも見たこともない。

 伝説にしかない。同じ伝説の剣を見たいを望んだ。

 聖剣に触れ、研究して同じような性質の剣を打つ。

 そんな時にある貴族から聖剣グラームの噂を耳にした。

 本当か嘘かはっきりしない。聖剣が人が入れる森の中にあるなんてありえない。

 とっくの昔に誰かが手に入れているはず。

 まだあるというのであれば、強い何かに守られているか、罠があるか。

 噂だけで行動するほど愚かではないし、仕事も溜まっている。

 どんなに剣や槍を鍛えても次から次へと舞い込んでくる。

 ドワーフでなければ倒れてしまうほどの仕事を抱えていた。

 人だったら過労死するが頑丈なドワーフはこなしてしまう。

 大好きな酒を飲む時間が少ないのが悲しいぐらいだった。

 仕事仲間のデニスがグラームの噂を仕入れてきた。

「どこかの貴族様がグラームを見つけたらしい。でもばらばらになっていたので

怒ってそのままにしてきたらしいぞ」

 ドワーフの伝説では聖剣グラームは役割を終えて壊れることになっている。

 人の間では壊れるというのは伝わっていない。

 引き留める人もいたがほとんどはボリスの旅立ちを歓迎した。

 好意的なものが多かったが、打算的なものも少なくなかった。

 1番の売れっ子がいなくなる。1番の鍛冶師というのは魅力がある。

 同行を申し出る者もいた。すべてを断って1人で出ることにした。

 破片であっても聖剣に触れたいという欲求には勝てなかった。

 全財産をもってまずはジャンを探した。あっけなくジャンと会えた。

「聖剣グラームのある場所の地図が欲しいですか。これまで幾人かにお譲りしていますので、

そちらから頂けばよろしいのではありませんか?」

 ボリスはジャンから目を離さなかった。一挙手一投足を見逃さない。

「金貨10枚ならあります。売ってください」

 金の入った革袋を差し出した。ジャンが手を振った。

「そんなはした金はいりません。案内人として雇わないのであればお引き取りください。

それとも金貨千枚で雇いますか?」

「出世払いでかつ分割でよければ」油断なくジャンを見つめる。

 肩をすくめた。「まるで剣士ですね。世界王の手先と疑われるのも無理はありません。

あいにくと彼との相性が最悪でして、命を狙われているのですよ」

 ククッと笑った。「よろしい。あなたが出世する方にかけましょう」

 ジャンが右の指を鳴らすと土が盛り上がり、邪魔な木々が倒れた。

 ボリスの目の前の森に一直線の道が通った。

 歩いていると魔物が左右から迫っていた。

 2匹は道の横で止まった。透明な壁で阻まれている。

 降ってきたドラゴンも壁を貫通できず、顔がひしゃげた。

 安全な森といわれていたのに次々と魔物がやってくる。

「よほどあなたと聖剣を会わせたくないのでしょうね」

 唖然としていたがジャンの声で立ち直った。

 奥へと歩いていく。気持ちが高ぶってきた。

 ぽっかりと空き地が開いていた。そこに青く光る破片が散らばっていた。

 駆け寄って破片を拾う。日にかざす。「もしかしたらサファーヤかな。見たことないけど」

 サファーヤはオルハリコンやミスリルと並ぶ伝説の金属で青色が特徴となっている。

 それぞれの金属はもう産出されない。伝説の剣や鎧などといった武具しか存在しない。

 伝説の武具のほとんどは散逸している。いくつかはどこかの王家や貴族が秘蔵していた。

 たとえ有名な鍛冶師であっても見学できない。ただ魔物の部位をいろいろと混ぜることで、

伝説にある機能と似たものが作り出せる可能性が出てきた。

 それでも本物があれば研究が進む。ボリスは破片を一つ残らず革袋へと収めた。

 森の外に出ると魔法がとけて森が元に戻った。

 破片の1つを炎にくべた。全く熔けない。

 現在の炉では剣を打つ以前にサファーヤを柔らかくすることすらできずにいた。

 1月ほとんど寝ていない。横になっても興奮して眠れない。

 ボリスだけでなくグラームの破片を渡された鍛冶すべてが同じだった。

 破片には限りはあるし、それなりの腕も必要となる。

 ボリスが信用できると判断した者たちでもあった。

 一部だけが狂騒状態で、残りは通常運転をしていた。

 武具の製造が滞っては困るので鍛冶師以外からは歓迎された処置だった。

 疲れた体に鞭打って研究を続けようとして母と妹に泣かれて横になった。

 寝る前に母親が温めたミルクを飲ませた。

 体の芯が温まったことが作用したのかうとうとした。

 父親が夢枕に立った。何かを叫んでいた。ハッとして目が覚めた。

 グラームの柄を握った。軽く振る。グラームの伝説が浮かんだ。

 サファーヤの破片を回収し、鍛冶師たちが見守る中でボリスは炎にドラゴンの血を振りかけた。

 炎が大きくなり火力が増した。サファーヤが柔らかくなる。

 次々とサファーヤを火にくべ1つにしていく。

 ダンとともにサファーヤを叩く。グラームが復活した。

 名だたる剣士がグラームを欲しがった。ところが誰1人として持ち上げることすらできない。

 グラームが主人と認めたのはボリスだった。

 ボリスは剣士兼鍛冶師として反世界王軍に参加した。

 グラームはどんな敵であっても一刀両断した。

 仲間の武具の手入れと補修もした。劣勢だった反世界王軍が逆転に成功した立役者の1人となった。

 世界王は聖剣グラームによって倒された。世界が平和になるとグラームはまたばらばらになった。


お読みくださりありがとうございました。

このシリーズは一応終わりです。

ネタを思いついたら追加するかもしれませんが今はすっからかんです。

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