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からっぽなわたし

連続投稿2話目。

「んん…ぁったま痛…」


二日酔いが酷い。


のろのろとキッチンに行き、とりあえず水をがぶ飲みする。


頭で盛大に主張する鈍痛と戦いながら1DKの狭い我が家のリラックススペース、大きなビーズクッションに体を委ねる。

はらりと床に落ちた長い黒髪から居酒屋の匂いがして顔をしかめる。シャワー浴びよう…


「昨日はミカに付き合わされたなー」


眉間を揉みながら昨夜のことを思い返すと、思わず溜息が出た。


知人であるミカの同僚かつ元彼が、職場の後輩とできちゃった婚を果たし、披露宴は笑顔で終えたもののその後の飲み会で荒れに荒れたのだ。


『あの野郎、私と付き合ってる頃から後輩ともヤッてやがったのよ!?出来ちゃったからゴメンって馬鹿なの!?私の方が付き合い長いのにその程度!?』と泣きながらワインやら日本酒やらを何本も空けていた。


きっとあのとめどない涙の成分はアルコールだったに違いない。



と、そこまで回想して、ふと目の前の小さなローテーブルに目をやると、見慣れない青い瓶が置かれている。


いやいや、見た記憶はある、これは確か昨日飲んだ帰り道…




「そこの貴方。運命の相手をお探しじゃないかしら?」



そんな胡散臭い台詞で、露店で占いをやっているオバさんが声をかけてきたのだ。


もう占いのカラクリはしっている。


誰にでも当てはまりそうなことをもっともらしく言うことで、本当にそうなった気持ちにさせるのだ。

「運命の相手」だって、そりゃ恋愛でも仕事でも運命を探してる人は多いだろう。



「あいにくと、今の状態を受け入れてるので探していません」


「あら、気づいていないわけがないわ。だって貴方、空っぽだもの」



ーー失礼な。


そう思ったけど言い返す言葉にはならなかった。


本当のことだったから。



幼い頃に両親と死別し、唯一の肉親としてお世話になった祖母も、高校に入る前に他界した。


あまり周りと深く関わってこなかった。何も真剣にやってこなかった。いつか死ぬなら虚しいだけだと。


ミカだって、良くしてくれて感謝はあるけど向こうからの連絡がなければわたしは多分会うこともないだろう。


大学も、行っておいた方がいいという理由で親の残したお金で通っているくらいで、今の自分には何があるのか自分でもわからない。



固まった私を見て、その占い師は、「嫌だ、そんな顔しないでよ。変な言い方して悪かったわ。そうね、お詫びにコレあげる。説明書つけてあるからやってみなさい。言っとくけどーー本物だから丁重に扱ってね」


どんな顔をしていたのか。良くわからないが丁重に扱わねばならないものを酔っ払いに渡すなと言いたい。



そう言いたいのに、気持ちとは裏腹に縋るように渡された青い瓶を掴んだ私は、心の奥底で運命とやらを受け入れていないのか。



そのまま逃げるように家へ帰って説明書を読めば、あのふざけた内容だったのだ。



酔っ払いながら運命の相手への気持ちを手紙にしたためて瓶に詰める女。

思い返すと痛い…二日酔いの頭以上に痛い。



「……ん…??」



カサッと瓶の中で音を立てた紙を良く見てあることに気づき、取り出す。


「私こんな紙使ってないよねぇ…?」


その手触りは明らかに上質な紙で、なんだか花の香りまで漂う。


私が昨日手紙を書いたのは、チラシの裏だ。


…何も言わないで、それしかなかったんだから。

仮にも運命の相手への思いをチラシの裏に書いたのはさすがに自分でも引く。



「昨日は気づかなかったのかな?」


それにしても昨夜私が入れたはずのチラシ…もとい、手紙が入っていない。

え、やだ入れたつもりで紛失した?


できれば間違って捨てたんであってほしい。何書いたか覚えてないけど、普通なら言わないことをつらつら書いた気がする。間違って今見たら深夜に書いたポエムを翌朝見るくらい恥ずかしいやつじゃん!


私の手の中で紙がぐしゃりと形を変えて慌てる。

あの占い師さんの手紙かな?

見てみないとそれもわからない。

ちょっと失礼しますよー


「なんだこれ」


エジプト文字?記号?何だろうかこれは。少なくとも日本語ではない。


でも、形式はたぶん普通の手紙だ。宛名、本文、そして差出人。読めはしないけど手紙からの花の香りはなんだか心が安らぐ気がする。これなんて香りだろう。手紙に香りつけるなんてお洒落だなぁ。



まぁとにかく、謎だ。酔っ払って受け取っちゃったけどお代も払ってないし今度あの占い師さんに瓶ごと返そう。

って言ってもどのあたりだったっけな飲んだの…かなり酒に呑まれてたせいか記憶がおぼろげだ。


…あげるって言われたものだしいいか…


私は考えるのをやめた。


とりあえず瓶はアクセサリー入れにでもしようかと、つけたままま寝てしまったらしいブレスレットを瓶に入れて適当なところに置いておいた。



そのまましばらく瓶の存在を忘れていたんだけど、数日後、街でもぶらつくかと準備を始めブレスレットを身につけようと瓶を覗いて異変に気付く。


また紙が入っている。


「え?あれ、ブレスレットここに入れたよね?」


イニシャルと誕生石がついたシンプルなブレスレット。確かに入れたと思ったのにない。

というか、取り出して見ると、入っていたのは明らかにこの間とは違う香りの紙だ。


「どういうこと…?」


ブレスレットは手紙の代わりにどこかにいってしまったとか?まさか!

気付かないうちに無くしたのかなぁ…気に入ってたのに!


今度の内容は、短い。

が、読めないのであまり関係ない。


よーく見ると『?』らしきものは読めた。

それっぽい形なのか、クエスチョンマークはエジプト文字らしきところでも共通なのか。



そこでまた気まぐれを起こし、何かを書いて入れて見ることにした。


適当なチラシがなく、お昼ご飯を買うついでにコンビニで便箋を買う。

超ファンシーなウサギのイラストのものか、和紙に花の絵が水彩のようなタッチであしらわれたものか、キュートか渋いか極端なものしかない。


なんとなく花の方を手に取り、お会計をすませる。


「何を書くかなー」


手紙を書くなんて、久しぶりだ。

小学校の頃、転校していったコに送ったくらい。結局私の筆不精がたたり連絡途絶えちゃったんだけど。


家までの道すがらそんなことを思いつつ、足取りが軽いことには気付かないふりをした。



駄文を読んでくださり本当にありがとうございます…

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