すべて状況証拠だよね
活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。
「すべて状況証拠だよね。娘さんの行方が知れない、彼女が身に着けていた簪だけが残されている、機巧姫を二体も購入したが化粧が不十分だ、彼の家を監視している奴がいる――だから娘が誘拐されたのだろう。しかも機巧姫は国外に持ち出される可能性があるっていうのは論理が飛躍しすぎだと思う」
そういう意見を待っていた。
僕一人では思い込みで偏りが生じる可能性が高い。
こうして指摘してもらえることでより正しい形が見えてくるはずだ。
「実は僕もそう思っているんです。思い込みなら問題ないんですが、実際に想像していることが進行していたらまずいことになります。だから力を貸していただきたいのです。状況証拠を並べて推測するのではなく、確たる証拠が掴めればはっきりしますから」
「力を貸すのはもちろん構いませんが、何をすればいいのでしょう?」
「まず中伊さん以外に機巧姫を購入した人たちを明らかにしたいんです。津島屋では素性のしっかりした人にしか機巧姫を売らないと言っていましたが他のお店では違うかもしれません。ふらりと現れた人に売ったかもしれない」
「こっそり裏で取引してるのなら誰に売ったかなんてわかりっこないと思うぜ」
「それならそれでいいんだ。今後はそういう人に売らないように指導すればいい。その上で関谷で流通する機巧姫はすべて操心館で買い上げるようにするから」
言いながら視線を館長へ向ける。
「先日、相談を受けた件ですね」
「そうです。津島屋さんからは了解すると返事をもらいました。他の店とも交渉する予定だったのでちょうどいいかと思いまして」
今のやり取りの意味がわからなかった不動が頭をひねっている。
「兄貴、俺にもわかるように説明してくれ。つまり機巧姫を買うのか?」
「今回の件とは別なんだけど、操心館にいる候補生がなるべく多くの機巧姫と出会えるように関谷に出回るすべての機巧姫を買い上げようと考えているんだ」
「……それ、めちゃくちゃ金が必要になるだろ。大丈夫なのか?」
信じられないという顔をした不動に広幡館長が説明してくれる。
「この件はフジカワ様から許可をいただいていますからご安心ください」
「あ、そうでした。近日中に津島屋から灰桜の君が届きますのでよろしくお願いします」
「わかりました。受け入れの準備をしておきましょう」
「でもなあ、俺を認めてくれる機巧姫がいるかどうか……」
「そこは茅葺さんの研究に期待ですかね」
今度は壁際の茅葺さんを見る。
「そういうことか。これは責任重大だな」
「どういうことだ?」
不動の視線が僕と茅葺さんを行き来する。
「実は機巧操士の魂の色に影響を与える研究をしていてね。それが上手くいけば機巧姫と共感できる者を今よりも簡単に増やせるようになる……かもしれない」
「すげぇ! じゃあ俺も機巧操士になれるってことか!」
「あくまで研究が上手くいけばの話だから確約はできないよ。でも機巧姫の数が増えるのはありがたいね。試行回数を増やせるってことだから」
拳を握った不動が今にも飛び上がりそうに喜んでいる。
「他の店が機巧姫を売ったかどうかの確認はこちらで行いましょう。今後の機巧姫購入の交渉も同時にしておきます。他にやるべきことはありますか」
「僕から一つ提案が。関所の取り締まりを強化すべきじゃないかな。こちらが手を回す前に関谷から出ていかれたらまずいだろうし」
茅葺さんの提案に広幡館長が「早速、指示を出します」と応えた。
「まどろっこしいことしないで本人に直接聞いたら早いんじゃないか?」
「私もそう思ったんだけどダメなんだって。ナカイさんの家が見張られているから」
「本当に娘さんが誘拐されているという前提ですが――協力者の存在を知られて強硬手段に出られるのを防ぐため、というところですかな」
広幡館長の思慮深い瞳が僕を見る。
「その通りです。今は中伊さんの家を見張っている者を翠寿に監視してもらっています」
「だったら犬っ子にさらわれた奴の匂いをたどってもらえばいいじゃないか。人狼の鼻はすごいぜ」
「この前の雨で匂いが流れちゃって無理なんだってさ」
茅葺さんがポンと手を打つ。
「犯人が誘拐の事実を知らせるために簪を送り付けてきたのなら手紙も一緒だったんじゃないかな。だったらその手紙を読めばいい。事態がはっきりする」
それは考えなくもなかった。
「表は見張られていますし、裏口には結界が張られているんですよ。大っぴらに訪問するのもまずいですし、忍び込むのは簡単じゃないと思いますけど」
「紅寿がいるじゃないか。彼女は間者としても優秀だ。誰にも見つからないように侵入して手紙を読んでくるぐらい造作もない。そうだろう?」
みんなの視線が紅寿に向けられる。
「コウジュ、できそう?」
澪の確認に、こくんと頷いた。
「ちょ、ちょっと待ってください。紅寿は優秀だと思いますけど、どうやって入り込むんですか。相手も警戒しているからこそ裏口に結界まで張っているんでしょうし」
紅寿は耳をパタパタと跳ねさせ、澪を見上げる。
「……見つからないようにするから大丈夫だって」
「人狼の彼女なら任せて大丈夫でしょう」
「犬っ子姉なら問題ないって」
「紅寿は優秀な忍びだから信頼していいと思うよ」
みんな、これっぽっちも心配していない。
紅寿の瞳が僕をまっすぐにとらえる。
お前はどうなのだと問われているみたいだ。
「……じゃあ、お願いしようかな。絶対に無理はしないで。向こうに気づかれるのだけは避けたいからね。上手く入り込めたら紀美野さんがさらわれている証拠を探して。手紙があれば取引の場所とかもわかるかもしれない。頼むよ」
紅寿はいつもの表情でこくりと頷くだけだった。
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