広幡館長の部屋に勢ぞろいしていた
活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。
広幡館長の部屋に勢ぞろいしていた。
僕、澪、葵、広幡館長、茅葺さん、不動、紅寿と七人も入るとこの部屋も狭く感じる。
「話を伺う前にこの人選をした理由を聞かせていただけますかな」
年齢からくるものか広幡さんは落ち着いている。
扉近くの壁にもたれている茅葺さんも同様だ。むしろ僕が何を言い出すのか楽しみにしている風にも見えた。
この中で一番状況を理解していないであろう不動は緊張しているのか目に落ち着きがない。事前に説明している時間がなかったんだ、ごめん。
それにも関わらず僕についてきてくれるなんて、本当に不動はいい奴だと思う。あと、戦力として本気で頼りにしているから。
「城下で問題が起きているようなので、お力を貸していただきたく声をかけさせてもらいました」
戦力という意味では機巧操士の梅園さんもいる。
だけど残念ながら彼は僕によい感情を持っていないようだし、何より今は交代で国境に出てしまっているからあてにできない。
というわけで、この操心館の責任者である広幡さんと僕が出会って少なくとも友好的な関係を築けたと思っている人たちにこれまでの事情を報告して、相談することにした。いわゆる報連相というやつだ。
「悪いんだけど、僕が力になれることなんてあるのかな?」
「茅葺さんにはお知恵を拝借したいと思います。この中で機巧姫について一番詳しい方ですから」
「それなら力になれそうだ。荒事は苦手だからね」
「荒事なら俺に任せてくれ!」
不動は獰猛な笑顔でパシンと拳を手のひらに打ち付ける。
うん、本当に頼りにしてる。
「協力はするのはいいんだけど、私にもわかるようにちゃんと説明してくれるんだよね」
「もちろんだよ。まとめて説明したほうがいいかと思ってさ。話をするのが後回しになってごめん」
頭を下げると、「いいよ」と言いたげに澪はほほ笑んでくれた。
「何者かが関谷から機巧姫を持ち出そうとしているようです」
まず結論から述べる。
この場にいるのは機巧姫という戦力が国外に流出することの意味を知る人ばかりだ。部屋の空気に緊張が走ったのがわかった。
「どうしてそう思われたのですかな」
心なしか広幡館長の視線が鋭い。
「最近のことですが、機巧姫を買い求めた人が何人かいたそうなんです」
「機巧姫を購入するのは禁止ではありませんからそのことに問題はありません。それにこの国に暮らす者であれば出人形が厳罰に当たることは承知しているはずです」
出人形っていうのはつまり国外へ機巧姫を持ち出すことだ。
「そもそも機巧姫ってそんな簡単に買えるものなのか?」
不動の疑問に答えたのは茅葺さんだった。
「人形師にツテがあって直接交渉をするのならまだしも、機巧姫が欲しいと店に行っても無駄だよ。滅多に流通するものじゃないし、一見さんは最初からお呼びではないからね」
それを聞いて不動は不機嫌そうに鼻に皺を寄せた。
「その購入者の一人が永寶屋の中伊喜正さんだったんです」
「中伊さんが? あの人は人形とは距離を置きたいと言っていたはずだけど……宗旨替えでもしたのかな」
顎をしごきながら茅葺さんが呟く。
「津島屋に来た中伊さんをたまたま僕も見ましたが明らかに様子が変でした。ひどく顔色が悪くて、まるで誰かに見張られているみたいな感じで。機巧姫を二体も購入し、しかも化粧もろくにしないで済ませたそうなんです」
「化粧を? 普通は好みの人形にするために化粧師にあれこれ注文をつけるものなのにどういうことだろう。人形雛じゃなくわざわざ機巧姫を買ったってことはかなりのこだわりがあるはずだよね。それにきちんと化粧をしないとまともに動かないんだけどなあ」
宇頭さんの言っていた化粧関係のことは調律師である茅葺さんにとっても気になるところだったようだ。
「機巧姫を購入してからの中伊さんは部屋に閉じ籠っています。娘さんと二人暮らしだったのですが彼女の姿は確認できません。働いているお店に連絡も入れずに休んでいるそうです。ただし彼女が身に着けていた簪だけは家に残されています。それから中伊さんの家は何者かによって監視されています。しかも裏手側には侵入者感知と思われる結界まで張られていました」
「ふむ……たしかに妙と言えば妙ですね。フブキ様のお考えを聞かせていただけますか」
広幡館長は椅子の背もたれに体を預ける。
「恐らくですが、娘さんがさらわれて、彼女の身柄と引き換えに中伊さんは機巧姫を購入させられたのではないでしょうか」
「そういうのは許せねえ! 今すぐ助けに行こう、兄貴!」
既に不動は扉に手をかけている。
即断即決即実行。鬼の鑑だ。
「お待ちなさい、オオヒラさん。仮にその推測が事実だとしても、どこに連れ去られたのかわかっていないのですよ」
「えーと、僕の意見を言ってもいいかな」
右手を軽くあげたのは茅葺さんだ。
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