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これでようやく本題に入れる

活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。


 これでようやく本題に入れる。


「ところで、先日、永寶屋の中伊さんがこちらで機巧姫を買い求めたと思うのですが」

「はい、その通りでございます」

「何かおかしなところはありませんでしたか」


 なんとも曖昧な質問だけど、宇頭さんは僕の言わんとするところを汲み取ってくれた。


「そうですね……なんでもいいから機巧姫をあるだけ欲しいと言われました」

「二体でしたね」

「はい。紅樺(べにかば)の君と鶯色(うぐいすいろ)の君です」

「ここにいる子は買っていかなかったんですか?」


 澪の質問に宇頭さんは曖昧にほほ笑むだけだ。これなら言質を取られない。

 在庫は灰桜の君以外にもあると見た。まあ、それも操心館で買い上げることになるんだけど。


「中伊さんは仕事柄、人形を買い求めないようにしていると伺っていたのですが、何か心変わりすることでもあったんでしょうか」

「さて……」


 本当に思い当たることがないのか、宇頭さんは首をひねっている。


「ああ、そういえば化粧の指定が……」

「化粧って、あの化粧ですか?」


 手で自分の頬をパタパタと叩いてみせる。


「ここにいる灰桜の君のような素のままの人形には意識がございません」


 揺らめく灯りでも灰桜の木目ははっきりと見ることができる。

 僕たちの会話は聞こえていないようでピクリとも動かない。


「新品の人形を購入したら、まずは化粧を施します。化粧師たちの手によって人形は外見や性格が与えられるのです。購入したお客様は化粧師に希望を伝えます。優しい顔立ちがいいだとか、凛々しい性格の子にして欲しいだとか。そういった意向を汲んだ化粧師の手によって人形に命が吹き込まれるのです。そちらの葵の君のように」


 背後に立つ葵に視線を向けると目元がフッと緩む。その表情は人形に見えない。


「化粧をされた機巧姫は自分の意志を持つようになります。主人の指示がなくとも自分で判断して行動するようになるわけです。これが人形雛ですと立てや座れといった簡単な命令に従うぐらいなのですが」

「このお店の前に立っている人形のようにですか」

「左様です。これが機巧姫になりますと、たとえ連れ合いがいなくともある程度は自分で考えて行動するようになります。葵の君のような神代式であれば人間と見分けがつかないでしょうね」


 それはわかる。

 髪の色さえなければ葵は人間そのものだ。


「ですから普通のお客様は化粧にかなり拘られます。時間をかけて理想の人形にするのです。だというのに最低限の下地だけを整えてくれればよいとおっしゃられまして。最初の化粧は通常ですと最低でも一週間。拘る方なら一月以上はかかるものなのですが」

「それだと何が問題なんですか?」

「せっかくの機巧姫なのに自我を持ちません。自分で判断したり、行動したりすることも難しいでしょう」


 そういうことなら化粧に拘るのもわかる。

 せっかく手に入れた機巧姫を自分の思い描く通りにできるというのに、それをしないというのだからおかしいと宇頭さんが思うのももっともだ。


「他には何かありませんか。好みとか注文内容とかなんでもいいんですけど」

「うーん、特にはありませんねえ」


 本当に手に入ればなんでもいいということか。

 そのために一億圓ものお金をポンと出せる中伊さんもすごいけど。


「受け渡しはどうなっているのでしょう」

「二日後です。かなり急ぎの仕事になってしまい化粧師からは嫌な顔をされてしまいましたが」


 あと二日か。それまでに情報を集めないといけないな。


「色々と興味深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました。こちらの灰桜の君ですが、操心館へ運んでいただけないでしょうか」

「かしこまりました。化粧はいかがいたしましょう」

「このままで結構です。候補生の中から彼女の連れ合いとなる者が出てくるかもしれませんから、その時に改めて相談をさせてください」

「承知いたしました」


 津島屋を後にして、今度は操心館へ足を向けた。

 僕の後ろを小走りになった澪が付いてくる。


「ねぇ、さっきの話でなにかわかったの? 本当にキミノさんは拐かされたの?」

「多分ね。紀美野さんと機巧姫を交換ってあたりじゃないかな」


 それなら中伊さんが人形を買い求めたのにも納得がいく。

 犯人は紀美野さんを誘拐したことを証明するために簪を送り付けたのではないだろうか。


「もしそれが本当ならキミノさんを取り戻さないと!」

「うん。だから澪にも力を借りたいんだ」

「もちろんだよ。なんでも言って」


 澪の癒しの力が必要にならなければいいんだけど、いざという時は頼りにさせてもらおう。


「この世界に警察は……ないよな」


 治安維持をしているのは澪たちのような武士だろう。となれば、この世界で僕が出会った人たちの力を借りるしかない。

 急いで操心館へ向かった。


        ※        ※        ※


「澪は紅寿を探してきて。今日は操心館で仕事をしてたでしょ。葵は茅葺さんを呼んできて欲しい。集合場所は館長の部屋ね」

「わかったわ」

「かしこまりました」


 操心館の玄関ポーチを速足で抜けながら澪たちに指示を出す。


「僕は不動を探してから向かうから。じゃあ、後で」


 二人と別れて真っ直ぐに道場へ向かう。

 不動ならいつものように鍛錬をしているだろうと予想した通りだった。


「不動!」

「お、兄貴か。どうしたんだ、血相を変えて」

「悪いけどついてきて」

「おう!」


 二つ返事だった。

 ノータイムでついてきてくれて助かる。

 不動を連れて広幡さんの部屋に急いだ。

20191130……感想でいただいた部分の調整を行いました。


Amazonやe-hon、セブンネット、Yahoo!ショッピングでも予約が始まっていますので、よろしくお願いします。

オフィシャルサイトは

https://arklightbooks.com/product/karakurihime/

です。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >>この世界に警察……はないよな。となると、自分たちでなんとかするしかないか この台詞にすごい違和感があるのですが。 小国とはいえ、一応国家である以上、町奉行などの警察に相当する治安…
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