赤でもなく青でもなく緑でもない
活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。
「赤でもなく青でもなく緑でもない。一番いいものを頼む」
そう伝えると宇頭さんの瞳の色が変わった。
さっきまでの恍惚とした表情は消え失せ、商売人の顔になっている。
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
先に立った宇頭さんに続いて店の奥へと入る。
「今のなに?」
「合言葉かな。昨日の中伊さんが口にしていたんだ」
あの時も人目を憚るようにして店の奥へと姿を消した。
だから思い切って切り出してみたんだけど正解だったようだ。
「足元にお気を付けください」
宇頭さんは蝋燭を手に地下へと続く階段を降りて行く。
「最近は機巧姫よりも人形雛が人気で生産数がぐっと減ってしまい在庫も十分ではないのですが」
壁の蝋燭が灯される。
そこは六畳ほどの狭い部屋だった。
宇頭さんと僕たち三人が入ると部屋はいっぱいになる。
「これは――」
そこには一体の人形が飾られていた。
「新式は灰桜の君でございます」
揺らめく蝋燭の灯りのせいではっきりしないけど、名前から推測するに灰色がかった桜色の髪と勾玉を持つのだろう。
「この度はそちらのアワブチ様の連れ合いをお探しなのでしょうか」
「いえ。彼女にも連れ合いはいますから」
「それでは……?」
機巧姫を求める符丁を伝えたのに買いに来たのではないと言われれば宇頭さんが疑問に思うのももっともだ。
「今回は取引について提案をしに来たのです。今後、機巧姫が入ってきたら優先的に操心館へ紹介していただければと思いまして」
これからは機巧姫の数が必要になる。
もちろん、機巧姫を保有しているだけでは意味はない。共感できる機巧操士と対になっていなければ戦力にならないからだ。
でも機巧姫を確保することには意味がある。
具体的には他国への流出させないことで戦力増強を防ぐことができる。言い方は悪いかもしれないけど飼い殺しというやつだ。
そうしたマイナスをなくすだけではない。
茅葺さんの計画が上手くいけば操心館に所属している候補生が機巧操士として戦えるようになる。そのためにも機巧姫の確保は絶対に必要だった。
「機巧姫の入荷はそうあることではありませんからお力になれるとは……」
そもそも機巧姫の需要は限られている。
機巧操士でなければ機巧姫を活躍させることができない上に高価な品だ。しかも最近はより安価な人形雛の方が人気もある。
必然として機巧姫は市場に数が出回らない。
戦がなければこうして裏で細々と流通するのがせいぜいだ。
「先日のお話ですと機巧姫を求めた人がいたそうですが、購入したのはこの国の機巧操士ではないのでしょう。少なくとも操心館でそういった話を耳にしていませんし」
例えば中伊さんのような。
「……参りましたな」
余計なことを口にしてしまったと言いたげな苦々しい顔だった。
「人形雛では満足できず、どうしても機巧姫が欲しいという需要があるのは理解します。とはいえ、そういう人が多くないのも事実。でしたら優先的に操心館に回していただけないでしょうかという提案なのです。在庫として抱え込むより確実に売れる方がよいのではないかと思うのですが」
「それは確かにその通りでございます。ですが機巧姫は非常に高価ですから……お安いものでも数千万圓にもなりますもので」
下は二百万圓で手に入る人形雛に比べれば格段に高い価格帯だ。
思い付きで買えるものではないのは間違いない。
「操心館を運営されているのは藤川様ですから、その点はご安心ください」
「な、なるほど……」
要するに国の庇護下で機巧姫を卸す御用商人にならないかというお誘いなのだ。
もともと藤川様や井田様は太い客であっただろうけど、これからは国として取引をしようというのだから損はない話だと思う。
「ねぇ、そんな話をキヨマサ君がしても大丈夫なの?」
「実はね、この件は既に広幡様に相談済みなんだ」
不動から相談を受けた時、機巧姫の入手ルートの確保は速やかに行う必要があると判断した。
いつまた敵の機巧武者が攻めてくるかわからない状況で、一手の遅れが致命的なことになりかねない。
今すぐ不動たちが機巧操士になれないとしても機巧姫を確保しておくことには、先々を考えれば十分に意味がある。
だからその日のうちに広幡様に相談をして藤川様から好きにしていいという言質を取ってもらったのだ。
「お殿様にお買い上げいただけるということであれば、私どもに否やはございません。どうぞよろしくお願いいたします」
宇頭さんが深く頭を下げる。
「こちらこそ末永いお付き合いになりますようよろしくお願いします」
思っていたよりもスムースに話をまとめることができた。
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