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人狼というのは本当に素早いことですね

活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。


「人狼というのは本当に素早いことですね」

「当然よ」


 感心する葵の言葉に澪は得意げな顔をした。


「それよりも、どういうことなのかちゃんと教えてくれるんでしょうね」

「勿論だよ。澪の力も借りないといけないしね。できれば不動にも手伝ってもらいたいんだけど、まずは情報収集からかな。歩きながら話そうか」


 見張りがまだいるだろう通りは避けて長屋の反対側に出ることにした。

 狭い路地を抜けていく。


「情報収集ってなにをするの?」


 足を速めた澪が隣に並ぶ。狭い路地なので肩が触れる距離だ。

 葵はゆったりとした足取りで僕たちの後ろを歩いていた。


「いろいろだよ。操心館へ戻る前にまずは津島屋(つしまや)へ寄っていこう」

「津島屋って?」

「人形を売ってるお店だよ。昨日、そこで中伊さんを見かけたからさ」


 中伊さんは明らかに様子がおかしかった。

 あの時点では情報が全くなくて推測も何もできなかったけど今は違う。


「そもそも中伊さんって人形とは距離を取っていた人だったでしょ。下手にのめり込むと扱っている勾玉を見る目が曇るからって。だから人形を売っている津島屋に来ることすらおかしいと思ってさ。何らかの事情があったんだろうね」


 入居者募集の札がかかる長屋木戸をくぐって入ったのとは反対側の通りに出た。

 自然と早くなろうとする足の速度を意識して落とす。僕を追い越してしまった澪も足を緩める。


「どうしたの? 急ぐんでしょ」

「反対側に出たけど僕たちを見張っている奴もいるかもしれないからさ。警戒するに越したことはないかなって」


 歩きながら後ろに視線を送ると、葵は小さく横に首を振った。

 僕には気配感知の能力がないから、こういうのはすべて他人任せになってしまう。


「気が付いたことがあればなんでも教えてね」


 葵はわかったと言うように頷いてくれた。


「どうして私たちまで見張られると思うの? 何もしてないのに」

「窮地に陥っている中伊さんに会いに行ったから、かな」


 澪はきょとんとしている。

 その顔を見る限り、今の説明では理解できなかったようだ。


「多分だけどね、紀美野さんは誘拐――拐かされたんじゃないかと思う」

「そん、は? ……え?」


 澪の足が止まる。

 追いついた葵がその肩をそっと押したので我に返った澪の足が再び動き出した。


「キヨマサ君はどうしてそう思ったの?」


 歩きながら人差し指を一本立てる。


「一つ目は紀美野さんが笠置屋の仕事を休んでいたこと。お店の人も彼女が連絡もなく休んで困ってるって言ってただろ」

「そういえば。お酒の味も落ちてたし」


 お酒だけじゃなくて食事の質も落ちていたんだけどな。

 味音痴らしい澪がお酒にしか気が回らなくても仕方がない。


 続けて二本めの指を立てる。


「二つ目は中伊さんの家には一人しかおらず、紀美野さんの簪だけ残されていたこと」

「キミノさんはどこかに出かけているって考えられるんじゃない?」

「それなら簪は付けていくんじゃないかな。自分はお店の看板だっていう自覚もあったみたいだし。それから最後に――」


 三本目の指を立てたところで葵が発言をした。


「中伊様が主義を曲げてまで機巧姫を買い求めたこと、ですね」


 その言葉に頷く。


「だから津島屋に行って機巧姫を買った時の中伊さんの様子を聞くんだ。何かわかるかもしれないからね」

「それなら本人に直接聞く方が一番早いと思うんだけど……」

「中伊さんが見張られているみたいだからやめた方がいいと判断したんだ。下手に僕たちが接触すると相手を刺激しかねないだろ」


 通りをしばらく行くと店先に立つ美しい人形が見えてきた。


「あのお店?」

「うん。このお店には来たことないの?」

「私には水縹がいるからね」


 それもそうか。

 お店の前に立つ僕たちに向けて人形が頭を下げる。


「お疲れ様です」


 葵も人形に合わせて頭を下げていた。


「葵はその人形と会話できるの?」

「いいえ。この子たちには真の心がありませんから。仕方のないことです」


 どことなく憐れむような顔をして店先の人形を見つめる。


「いらっしゃいませ……おや? こちらの人形は……まさかっ」


 僕たちの会話を聞きつけて店先に姿を見せた宇頭さんが固まる。


「お、おおおおぉ……こんな美しい機巧姫を見るのは生まれて初めてですっ」


 ずさっと両膝をついて葵を拝む。

 いやいやいや。それはちょっと大げさすぎでは?

 道行く人の視線が痛いので宇頭さんを立ち上がらせようとするものの言うことをきいてくれない。


「葵、手伝って」

「はい」

「おおっ、なんと自然な仕草っ。そしてその声の美しさも素晴らしい!」


 はいはい。ご希望ならいくらでも葵と話をさせてあげますから、今は大人しくお店の中に入ってくださいね。

 引きずるようにしてお店に入ると、ようやく宇頭さんも我に返ってくれた。


「も、申し訳ありませんでした。思わぬ出会いに放心してしまい……こういう仕事をしていますから人形はたくさん見てきたのですが、これほど麗しい人形は初めて拝見いたしました」

「慣れているので大丈夫です」


 藤川様や井田様に比べたらなんてことはないですから。


「おや。お客様は先日の……」

「不吹です。今日は少し伺いたいことがありまして。ああ、紹介がまだでしたね。操心館で同僚の淡渕と僕の連れ合いの葵です」


 澪と葵が並んで頭を下げる。


「私はウトウ・ウヘエと申します。津島屋の主人をしております」


 宇頭さんの視線は葵の胸元に固定されている。


「この大きさは間違いなく古式以上。となると、やはりこの機巧姫は神代式。はあ、長いことこの仕事をしていましたが神代式をこうして目にする日がくるとは……感無量です」


 宇頭さんの視線を遮るように立つ。

Amazonでも予約が始まっていますので、よろしくお願いします。

オフィシャルサイトは

https://arklightbooks.com/product/karakurihime/

です。

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