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そんなのがお土産で本当にいいのかなぁ

活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

「そんなのがお土産で本当にいいのかなぁ」

「だから大丈夫だって」


 翌日、手土産を持って中伊さんの所へお邪魔することにした。

 同行者は葵、澪、それから翠寿だ。

 紅寿は操心館でやらなければいけない仕事があり、不動は日課の鍛錬をするので別行動だった。


 手土産として桜の葉を使ったお菓子を買い求めている。

 塩漬けした桜の葉で淡く色づいたお饅頭を包んである関西風の桜餅に似た品だ。

 店先で一ついただいたけど葉っぱから移ったほのかな香りと餡の控えめな甘みが感じられてなかなか美味しい。

 ただし一個当たりの大きさは見知っている桜餅よりずっと大きいんだけど。


「お見舞いに持参する品なら普通はもっと精のつくものだと思うんだけど。うなぎとかうさぎとかすっぽんとか」


 うさぎはわからないけど、うなぎとすっぽんは滋養強壮にいいのはわかる。


「確かに栄養は取れそうだね。でもすぐに手に入らないでしょ」

「うさぎならスイジュにお願いしたらすぐにでもとってきてくれるよ」


 さすがは狩猟者たる人狼だ。


「とってくるです?」


 瞳を輝かせる翠寿に聞かれた。


「いや、必要ないよ」

「そうですか……」


 とても残念そうだった。落ち込む翠寿も可愛い。


「うなぎは仕掛けを使わないといけないから今すぐは難しいかも。すっぽんは捕まえても泥抜きに時間かかっちゃうかな」

「本格的に紀美野さんが寝込んでいるのなら、そういうのを持っていくのはありかもね」


 今回はそこが主目的ではない。

 あくまで様子がおかしかった中伊さんや笠置屋を休んでいる紀美野さんのご機嫌伺いに行くだけだ。


「あれ? お店閉まってるよ」


 訪問時間が早すぎるということはないはずだ。

 実際、永寶屋以外のお店は開いていて、お客さんが入っている。


「今日はお休みだったのかな」


 この世界に定休日という概念があるかどうかわからないけど。

 すっと葵が体を寄せてきた。

 腕に柔らかなものが当たるのがわかって鼓動が早くなる。


「主様。皆様も。そのままでお聞きください」


 囁き声に頷きながら、扉をトントントンとノックする。


「こちらの様子を伺っている者がいるようです」


 思わず止まりそうになった体を意識して動かした。


「返事がないね。留守かな」

「さ、さぁ~、どどどうなのかなぁ」


 澪の返答はものすごくぎこちないけど、それにツッコミを入れる余裕はない。

 翠寿の視線の高さになるようにしゃがんで小声で話しかける。


「どこから見られてるかわかる?」


 頭巾の下の耳がピクピク動いているのが見て取れた。


「わからないです……ごめんなさい」


 返事の代わりに頭を撫でる。

 それから立ち上がってみんなに声をかけた。


「仕方ない。裏に回ってみようか」


 道を少し戻って長屋木戸をくぐるとそこは裏長屋だ。

 路地を挟んで両サイドに長屋が並んでいる。

 表通りに面したお店も板葺きで時代劇に比べれば見栄えはよくなかったけど、ここの建物はさらにみすぼらしい。

 道の中央には井戸に続く排水溝があり、その上にどぶ板がはめられているので踏み抜かないように道の端を歩く。


「さっきの気配はどう?」

「ついてきてはいないようです。どうやら店の入口を見張っていたようですね」


 視線を下ろすと翠寿も同意すると言いたげにコクコクと頷いていた。


「澪、肩の力を抜いてもいいよ」

「はぁぁぁ。すっごく緊張しちゃった」


 こわばっていた澪の表情が一気に緩む。

 下手をしたら手と足が同時に出そうなぐらい緊張していたもんな。


「誰がどういう目的で私たちを見てたのかな」

「わからないなあ。葵を思わず見つめていたってこともあるかもしれないし」


 葵を連れて町を歩いているとほとんどの人が視線を向けてくる。

 それは驚きであったり羨望であったりと様々だ。


「そういう類のものではなかったと思います」


 目的もわからないのに心配をしても仕方がない。

 それならばするべきことをしよう。


「ここが中伊さんのお店の裏だね。やっぱり留守なのかなあ」


 裏長屋は日雇いで働いている人などが暮らす場所だ。

 中伊さんのようなお店を持っている人は表通りに面した一階がお店で二階が生活スペースの表長屋で暮らしている。

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