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キヨマサさまはいますかー?

活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。


「キヨマサさまはいますかー?」


 声に顔を上げると、お店の入口から中を覗いている翠寿の姿があった。


「お疲れ様。入っておいで」

「はーい」


 用意してあった一角に翠寿が片膝を立てて座る。


「服が濡れてるけど雨降ってる?」

「ちょーどふりはじめたところです!」

「そっか。疲れたでしょ。食べたいものがあれば遠慮なく頼んでいいからね」

「ほんとうですか?」


 翠寿はキラキラと目を輝かせている。可愛いい。頭をなでなでしてあげたくなる。


「じゃあ、ふきがたべたいです!」

「蕗か。いいね。じゃあ、それも頼もう」


 味に期待が持てないのが残念だけど。


「ところでスイジュはどこに行ってたの? ひどいことされてない?」


 酷いことってなんだよ、酷いことって。

 理不尽な指示なんて出した覚えはないぞ。


「キヨマサさまにいわれたとおりに男の人のあとをつけてきました!」


 それだけでは理解できなかった澪が僕を見る。


「白糸様と人形を見に行ったんだけど、そのお店にたまたま中伊さんが来てね。ちょっと様子がおかしかったから翠寿に後をつけてもらったんだ」

「ナカイさんって勾玉に使う石を扱ってるあの? キミノさんのお父さんのこと?」


 澪の確認に頷く。


「中伊さんはあの後どうしてたのかな」

「機巧姫をかいました。ふたつもです!」

「すげえな。金ってのはあるところにはあるもんなんだな」


 バリバリと魚の骨を噛み砕きながら不動が感心している。

 自分たちも機巧姫を買いに行ったことを忘れているんじゃなかろうか。


 実際のところ、お店で機巧姫が購入できるのならば購入してしまうのもありだとは思う。

 とにかくまだ連れ合いがいない候補生たちに機巧姫と出会う機会を作らないといけないからな。


「それからおうちにかえりました」

「家に戻ってからは出かけてないの?」

「はい!」

「じゃあ、部屋にいた中伊さんの様子はどうだった?」


 翠寿の顔がみるみる曇り、ついには俯いてしまう。


「ごめんなさい。わからないです。部屋のなかまでしらべなかったので……」


 それについては翠寿のミスじゃない。


「ごめん。後をつけることしか指示を出さなかった僕が悪かったんだからそんな顔しないで。じゃあ、お店に戻るまでの様子はどうだったか教えてもらえるかな。念願の機巧姫を買ってやったーって感じだった?」

「うーん……どっちかというと、こまってたみたい? それから、おうちに帰るまでずっとキョロキョロしてました」

「翠寿がつけていたのがバレてたってこと?」

「ちがうと思います!」


 心外だと言いたげに翠寿は体を乗り出す。


「この子たちは気配を消すと本当にどこにいるかわからないから。だから気が付かれてはいないと思うよ」


 澪のフォローの言葉に紅寿も頷いている。


「実際、人狼に追跡されたら逃げ切るのも難しいからな。距離を開けてても匂いで跡がたどれるし。いくらチビっ子でもそんなドジはしないだろうさ」


 不動に褒められたと思ったのか翠寿は胸を張る。素直なところが可愛かった。


「はいよ~、蕗の煮物ね」


 不揃いに切られた蕗が盛り付けられたお皿が置かれた。

 翠寿はまるでお預けをされた子犬のようにお皿を見つめている。


「遠慮しないで食べていいよ」

「はい!」


 お箸を持っていただきますをした翠寿は蕗の煮物に「はぐっ」と食いつく。途端、眉根が寄った。


「どうした?」

「にがいです……あとかたい……です」


 どうやら灰汁抜きが十分ではない上に薄皮をしっかり剥いていないようだ。


「食べられないのなら残してもいいよ」

「なんなら俺が食ってやろうか?」

「いいです。ちゃんとたべます!」


 涙目になりながら翠寿は蕗にかぶりついた。


「ねぇ、ナカイさんの話、どういうことだと思う?」


 澪の問いに少し考える。

 その間にもシャクシャクと音を立てながら翠寿は蕗を口に入れていた。

 口の周りが汚れているのを紅寿が手ぬぐいで拭き取ってあげている。仲が良くて微笑ましい。


「この前は人形を買うつもりはないって言ってたわよね」

「急に人形を――それも機巧姫を手に入れないといけなくなったんじゃないかな」

「んー、たとえばキミノさんが体を悪くしたからお店の手伝いをしてもらうために人形を買い求めたとか」

「お店の前に立たせて呼び込みでもさせるの?」


 津島屋では人形雛をそうやって活用していたけど機巧姫にそれをさせるメリットがない。明らかにオーバースペックだ。

 それにコスト面から見ても適切ではないだろう。人を雇った方が圧倒的に安く済む。


「あれなんじゃないか。人形を持ってる俺すげえみたいな。他の人に自慢したくてとかさ。そういう人は多いって聞くぜ」

「そんな感じの人じゃなかったんだよなあ」


 自分の仕事に誇りを持っているからこそ、人形とは一定の距離を置いておこうという考えの人に見えた。

 そんな中伊さんが考えを変えてまで機巧姫を求めた理由はなんだろう。


「紀美野さんの様子も気になるし、明日にでもお邪魔してみようか」

「賛成。キミノさんには早くよくなって欲しいよね。だって美味しいお酒を飲みたいし」


 ギブアップした翠寿は紅寿に助けを求めていた。

 妹の援軍要請に応えた紅寿も微妙な表情でモグモグしている。


「なんなら俺が手伝ってやるぞ?」

「だいじょーぶです!」


 不動に譲るつもりはさらさらない翠寿だった。

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