なあ、兄貴
活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。
「なあ、兄貴。兄貴はどんな女がいいんだ? やっぱり胸がでかいやつか?」
「そうだ、フブキ殿の好みを聞いておきたい。いや、別にホノカの件は気にしないでいいから忌憚ない意見を述べてはくれまいか」
ちょ、二人して僕まで巻き込まないでもらえませんかね。
「なあなあなあ! 教えてくれよ、兄貴! やっぱり姉貴みたいなのが好みなのか? それとも犬っ子か? 姉貴はいい女だと思うけど犬っ子はどうかと思うぞ。あれはまだガキだからな」
ほほう。僕にケンカを売るとはいい度胸だな。
翠寿や紅寿たちのどこが素晴らしいのか、一晩中でも語ることだってできるぞ。
「フブキ殿にはすでに想い人がいるのか。ホノカの想いは……いや、別に正妻ではなく側室ということでなんとか……」
「いませんよ、そんないい人なんて」
「兄貴ならいくらでもモテそうなのに。欲がないんだな!」
二十六年生きてきてモテたことなんて一度もなかったからね?
「そうか。それならばホノカにも可能性があるということだな……よし!」
そこ! ぐっと握り拳を作らない!
「あんまり騒いでいると他の人の迷惑になりますから。そろそろ行きましょう」
「いやいや。せっかくだからもう少しじっくり観察していこうぜ」
しばらく窓枠から洗い場の様子を見学した後、銭湯を出ることにした。
※ ※ ※
暖簾を出た先に澪と紅寿、それから体格のよい三人の男性が待っていた。
「悪いね。待たせて」
「いいのよ。キヨマサ君のお願いだもんね」
操心館を出る前に澪に一つお願いをしておいた。
白糸様のことをお城まで報告してもらって護衛を送ってもらったのだ。
「お主らは……そうか。これはフブキ殿の差し金だな」
白糸様の視線が僕の顔に刺さる。
肩をひょいとすくめて返事とした。
「藤川様がお待ちですよ」
「……わかった」
少しだけ白糸様の表情に陰りが差したけど、それも一瞬のことだった。
「それではフブキ殿、フドウ。今日は世話になった。とても楽しかった。できればまた一緒に出かけたいものだ」
「勿論です」
僕の返事に白糸様は驚いたような顔をする。
「ただし、次はちゃんとお城で許可をもらってきてください。護衛の役目は不動がしっかり果たしてくれますから」
「お任せください!」
白糸様が城下町に出て様子を見て回るのは決して悪いことではないと思う。
黙って外出したのが問題なのであって、きちんと筋を通してあれば同行を断る理由はない。
「ありがとう、二人とも。次の機会を楽しみにしている。ではな」
護衛を連れて白糸様が去っていく。
「ねぇねぇ、なんかすごく仲良くなってない? 何があったの?」
澪の問いかけに不動と顔を見合わせて笑う。
「それは男同士の秘密だな」
「そういうこと!」
不動と肩を叩き合って笑う。
「あ、ずるい。教えてくれてもいいじゃない。せっかくキヨマサ君のお願いを聞いてあげたのに私だけのけ者ってひどくない?」
ぷくーと澪のほっぺたが膨らんでいく。
「それより僕たちのいる場所は紅寿が見つけてくれたんでしょ? 流石だね」
人狼なら鼻が利くだろうと思ってお願いをしたんだけど、その判断は間違っていなかったようだ。
「…………」
褒めたのに、どうして紅寿はそんな顔で僕を見ているんですかね?
「ねー。キヨマサ君ってひどいよね。女の子の気持ちなんてこれっぽっちも理解してくれないんだから」
「あ、二人だけで内緒の会話しないでよ!」
「内緒の会話なんてしてませーん。ねー、コウジュ」
紅寿はコクコクと頷いている。
くそう、〈友愛の声〉を使って二人きりで会話してるじゃないか!
「それより兄貴。これからどうする。そろそろ操心館に戻るか?」
中伊さんの後をつけてもらった翠寿はまだ戻ってきていない。
僕たちの匂いを辿って合流してくれるとは思うんだけど。
「せっかくだからみんなでご飯を食べていこう。澪たちも一緒にどう?」
誘ったのに澪はジト目で僕を見るだけだ。
おまけに、これ見よがしにヒソヒソと紅寿と話し合う。
「いい、ああいうのをご機嫌取りっていうの。絶対に引っかかったらダメだからね」
しかもこっちに聞こえるぐらいのボリュームでだ。
「別にいいけどさ。頼みを聞いてくれたお礼に二人の食事代も出そうと思ってたのに。今日は紅寿もいるからお酒もちょっぴりぐらいはいいかなーと思ってたのに残念だ。仕方がないから不動と二人きりで飲みに行こうかな」
「あっ、ずるい! 私たちも連れて行ってよ!」
澪を食事に連れ出すのは実に簡単なことだった。




