表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/142

兄貴、こっちに来てくれ!

活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

「兄貴、こっちに来てくれ!」


 お店の奥にある布で仕切りがされた向こう側から不動が手招いている。


「そんなところ勝手に入ったら駄目だって」

「いいからこれを見てくれよ」


 促されて覗いてみると、先に入っていた白糸様が腕を組んで難しい顔をしていた。


「バラバラの人形か。未完成品とも思えぬが」


 頭、胸、胴、腕、腰、足といった部位毎に並べられている。

 まるで組み立て前のフィギュアだ。


「妙だな。これは木製ではないぞ」


 頭部を手にした白糸様が呟く。

 それはまるで美術室に置いてある石膏像のようだ。


「お客様、困りますよ。勝手に奥まで入られては」


 渋い顔をした宇頭さんに注意される。

 思っていたより早いお戻りだった。


「すみません。すぐに出ます。ところで、さっきのお客さんって永寶屋の中伊さんでしたよね?」


 宇頭さんの片方の眉がひょいと上がる。


「もしかしてお知り合いでしたか」

「先日、勾玉の話を聞かせてもらったのです。その時とは様子が違っていたので驚きました。どこかお悪いんでしょうか」

「どうですかねえ。何か心変わりすることでもあったのかもしれませんが……」

「心変わり?」

「ああ、いえ。深い意味はございませんとも」


 笑顔の下にある本当の表情を伺い知ることはできそうにない。

 人生経験の差だろうか。聞き出すのは無理そうなので話を変える。


「ところで、ここにある部品は自由に組み合わせることで好みの人形に仕立てられるとか考えていたりします?」


 今度は両目が大きく見開かれた。


「お察しの通りです。試作の段階ではありますが、身長や体形など、お客様の好みに合わせ、ただ一つの人形にできないかと考えておりまして」


 おお、それはつまりセミオーダーメイドってことか。

 本当ならすごいことだぞ。


「古式の人形は一本の神木から削り出されるためにどうしても量産することはできませんでした。新式では複数の木を寄せ合わせて人形にすることで生産性を上げたのですが、こちらの人形は材料に陶磁器を使うことで部位ごとに生産できるようになったのです」

「そうやって好みの外見や体型にできるわけですか。画期的ですね」


 うんうんと宇頭さんが頷いている。


「私はこの方式で作られた人形のことを新々式(しんしんしき)と呼ぼうと考えております」


 素材を陶磁器にすることで大量生産を可能にしたのか。

 型があれば同じ形のものをたくさん作ることができる。まるでフィギュアの製造ラインだ。

 この発想の転換は素晴らしい。


「陶磁器に変わったことによる影響はどうなのですか?」

「これが素晴らしい効果がありました。人形雛とは比較にならないほど自然な姿になるのですよ。その動きの滑らかさは新式はおろか古式に迫ると言えるかもしれません」


 それが事実ならば確かにすごい。

 高品質の人形を量産できるとなれば市場への影響も大きいだろう。


「古式並みの仕草と美しさに加えて外見をある程度好みにできる。これぞ夢のような人形と言えるでしょう」


 このコンセプトを考えて形にした人に一度お会いしたいなあ。

 発想に至った経緯や実現の過程にどんな苦労があったのか是非とも聞いてみたい。


「値段はどのぐらいなのでしょう」

「これが、ぐっとお安くできるのです」


 言いながら指を一本立てる。

 人形雛の価格帯は二百万圓から六百万圓だ。


「百万圓ですか。それは安い」


 安い人形雛の半分の価格なら購入欲を刺激される人も多いだろう。


「これからはこの方法で作られる人形が流行ると私は睨んでいます。もう少し詰めていく必要はありますが、なるべく早いうちに販売できればと考えておりまして。それまではどうかご内密にお願いいたしますよ」


 この制作方法に思い至るのは容易ではないと思うけど、世に出るまで秘密にしたいという気持ちはよくわかる。


「自分の思い通りの外見にできるというのが本当なら素晴らしい。このことは父上やイダに伝わっているのだろうか。新しいもの好きなあの二人が話題に出していないということは知らない可能性が高いが……」


 僕と宇頭さんの話を聞いていたのか、白糸様が真剣な表情で何やら呟きながら間仕切りの奥から出てきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ