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シライト様、シライト様

活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

「シライト様、シライト様。こっち、こっちがすげーですよ!」

「おおおお。この一角に並ぶ人形はどれも豊満な体つきをしているではないか。フドウは目敏いな」

「連れ合いにするのなら、胸のところがぼんってなって、腰がきゅっとすぼまって、お尻がどーんってしてるのがいいですよね!」

「わかる、わかるぞ。私の母上や姉上もこのような体つきをしていてな。それはそれは魅力的な姿なのだ」


 二人はまるで中高生のような話題で盛り上がっていた。

 気持ちはわからないでもないけど、もう少し声は落としていただきたいところだ。


「人形雛ってどれぐらいするものなのですか?」

「高いもので六百万圓。安いものでも二百万圓というところでしょうか」


 幅はあるけど結構なお値段だ。新車の自動車ぐらいか。

 ただし自動車と違って人形雛に実用性はほとんどない。

 それでも欲しい人がいるのだから不思議なものだ。


「人形を持っているというのは他人に自慢できますからね。商売がうまくいっている。お金はある。ならば次に望むものは美しい人形というのがありまして。人の欲は際限を知りませんからな」


 武士ではない者が機巧姫を連れていても意味はない。

 だが庶民にとっても人形は憧れの存在である。

 廉価版でもいいので手元に置いておきたいという心理があるのだろう。


「動いている人形とはかなり雰囲気が違いますね」

「購入したお客様がお好みの化粧を施すことで人間らしくなりますよ。腕のいい化粧師(けわいし)もご紹介しております。うちで扱う人形は素体の状態でも出来がよいものばかりで、化粧を施すと人間と見分けがつかないと評判なのです」

「店先に立っていた人形のようにですか」


 確かにあの人形の外見は美しかった。外見だけは。


「左様でございます」


 とはいえ、あくまで見た目の評価でしかない。

 人形雛がどれだけ優れた外見をしていようとも、機巧操士と共感し、機巧武者になることはない。

 簡単な命令に従うことはできるが自我はない。

 実用性に乏しく、所有欲を満たすだけの存在。それにお金を払えるのはよほどの道楽者だ。


「こちらで機巧姫を買い求めることはできないのでしょうか」


 商売人の鋭い目が僕を観察している。


「人形雛と違って機巧姫は扱いが難しいのです。そもそもが高価なものですし」


 だから購入者はごく限られる。

 よほど裕福な商家か武家か。

 そんな貴重なものだから売買が成立すれば瞬く間に市場関係者の耳に入るそうだ。


「それに無断で国から持ち出すことは許されていないものですから、私の店では素性のしっかりした方にしかお売りしません。よそ様はそうではないと聞きますがね」


 操心館に所属していることは素性の保証にならないのだろうか。

 ある意味、これほど素性のはっきりした立場の人間も少ないと思うんだけど。


「最近、よそでいくつか取引があったらしいのですが……」


 声を潜めながら教えてくれた。

 高価な機巧姫を求めるってことは、藤川様か井田様あたりではなかろうか。

 お城で会ったあの二人の顔が目に浮かぶ。

 楽しそうに人形談義をしてたもんなあ。


「おっと、申し訳ありません。少し失礼いたします」


 新たに入ってきたお客さんに気が付いた宇頭さんが接客に向かう。


「あれは……」


 入口付近に人目を避けるように背中を丸めた人物がいる。

 土気色の顔をしていて、なんだかひどく疲れているようだ。

 その人は挨拶もほどほどに宇頭さんに用件を切り出した。


「……赤でもなく青でもなく緑でもない。一番いいのを頼む」


 それを聞いた宇頭さんは確認するかのように二言三言、小声で交わす。

 血走った目をしたお客さんは苛立たしげな表情をしていた。

 あの人、どこかで見たような気がするんだけど、どこで見かけたんだろう。


「翠寿。あの人に見覚えある?」


 僕の後ろにくっついて恐るおそる人形を見上げていた翠寿に聞いてみる。


「くんくん……はい。きれーな石のお店のひとです」


 あ、そうか。永寶屋の中伊喜正さんだ。

 それからもう一つわかったこと。翠寿は人狼だから鼻も効くんだな。


「随分とやつれてるね。どこか具合が悪いのかな」


 つい先日会ったばかりだというのに、十は年をとってしまったかのようだ。

 宇頭さんは中伊さんをお店の奥へと誘っている。

 周囲に視線を走らせているのが何やら怪しい。


「翠寿。こっそりあの人をつけることってできる?」

「できます!」


 自信ありげな元気のいい返事だった。


「じゃあ、お願い。無理はしないでいいからね。何があったか後で教えて。このお店を出ちゃっても僕たちのいる場所ってわかるかな?」

「キヨマサさまがどこにいてもだいじょーぶです! じゃあ、いってきます!」


 翠寿は音を立てないようにするりと奥へと潜り込んでいった。

 その動きはまるで忍者のようだ。本物の忍者なんて見たことないけど。

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