これが操心館の制服か
活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。
「これが操心館の制服か」
白糸様に僕の部屋までご足労願い、翠寿の手を借りて制服に着替えてもらう。
着替え終えた白糸様は何故だか嬉しそうだ。
「おにあいです!」
「そうか。こうしていると、私も皆と仲間ようだな」
「何を言っているんですか、当たり前じゃないですか」
「そうですよ。俺たちはシライト様の仲間なんです!」
「ああ、そうだな。うむ。私たちは仲間だからなっ」
白糸様は頬を紅潮させながらその言葉を噛みしめている。
「それでどちらのお店に行くんですか」
「イダが常々口にしている店があってな。そこへ行ってみようと思っている」
白糸様はお店の名前しかご存知なかった。不動や翠寿も知らないそうだ。
「では道々で聞きながら向かいましょう」
白糸様のお供は、僕、不動、翠寿の三人だ。
申し訳ないけど葵には留守番をしてもらうことにした。
翠寿には先行してお店の場所を探してもらっている。
「フブキ殿のいた城陽ほどではないだろうが、この国も賑やかだろう?」
瞳を輝かせながら白糸様は城下町を眺めている。
「これも全部、フジカワ様のお陰ですよ。えーと、関谷には物がたくさんあって、売ったり買ったりする人の行き来が多いからとかなんとか」
白糸様の傍をぴったりと固める不動は頭巾を目深に被っている。
「父上とフクオカの話でも出てきたな。関銭を取りやめるとどうなるのかというのも話し合っていたようだが」
「そんなことしたらお金が入ってこなくなるんじゃないですか?」
「いや、どうもそうではないらしいぞ。詳しいことは私にもわからんのだが」
そんなことを話していると、翠寿が小走りで戻ってきた。
「キヨマサさま、お店の場所がわかりました。こっちです!」
翠寿はくるりと踵を返し駆け出そうとする。
「走らなくてもいいよ」
そう声をかけると、ピタリと足を止めて僕たちが追いつくのを待ってくれる。
「フブキ殿は八岐の者をまるで手足のように使うのだな。私たちではそうはいくまい」
「そんなことないですよ。みんなに助けられてばかりですから」
実際、澪や翠寿がいないとこの世界での僕の生活は成り立たない。
「ここ、ここです!」
翠寿が指差す先が目的のお店だった。なかなか立派な佇まいをしている。
店の前には美しい外見をした人形が立っており、道行く人たちに時折頭を下げていた。
ある意味においては白髭のチキン屋やピエロのバーガーショップより先を行っていると言っても過言ではない。対抗できているとしたら白い犬の携帯ショップぐらいなものだろう。
「この人形、美人だなあ。いいなあ」
確かに美人だった。
肌の色は白く、瓜実顔で目鼻立ちがしっかりしている。
「フドウはこういうのが好みなのか」
「そうですね。年上とかいいと思います!」
小柄な不動が並ぶと人形が年上に見えてしまう。
そういえば僕よりも葵のが身長が高いんだよな。
今の僕の体は若返っているから仕方がないんだけど。
津島屋は質の高い人形を扱っており、城下随一と評判の人形専門店だ。
「店の前で盛り上がっていても仕方ありませんから入りましょう」
客引きの人形を舐めるように見ている二人に声をかけて店内へと入った。
「おー……」
不動は口をぽかんと開けて店の中に並ぶ人形たちを見ている。
「この店の品揃えは一番だとイダが言っていたが、その言葉に偽りはなかったようだな」
確かに圧巻だった。店内には様々な人形が飾られている。
壁は二段になっており上下に人形がずらりと並び、さらに天井から吊るされているものもある。これだけの数はホラー感すらあった。
「ちょっとこわい、です」
「怖いなら外で待っていてもいいよ」
しばらく考えていた翠寿は首を横に振る。
「キヨマサさまのおそばにいます」
そう宣言して僕の袖をそっと掴む。
心なしか指先が震えているので、安心させるためにぽんぽんと頭巾を被った頭を撫でてあげた。
「いらっしゃいませ。おや、その制服。もしや操心館のお人ですか」
白糸様と不動の視線は人形に釘付けだったので僕が対応するしかない。
「よくご存じですね」
「イダ様にはいつも御贔屓にしていただいております。申し遅れました。津島屋主人のウトウ・ウヘエと申します。今日はどのようなご用件でしょうか。操心館には機巧姫を連れ合いにした方が集められていると耳にしていたのですが」
「実は全員がそうというわけではないのです。僕は連れ合いがいますが、まだいない仲間の付き合いで今日はお邪魔した次第で」
「なるほど、左様でしたか」
「ここにあるのはすべて機巧姫なのですか?」
並んでいる人形の多くは木目がそのままになっている。
フィギュアであれば彩色前の素体状態といえばわかりやすいだろうか。そのため木彫りの木像といった風情である。
「いいえ。こうして店に並ぶのは人形雛だけです」
そうだったのか。
せっかく足を運んだのに残念だ。このやり取りも耳に入っていない様子の二人の背中を見やる。




