奴らの眼前めがけて急降下する
20191003改稿。
奴らの眼前めがけて急降下する。
ズシンという地響きと共に着地した。
衝撃波が着地点から同心円状に広がる。
土埃が舞い上がり、木々が震え、桜の花びらが舞い散る。
刹那、最も近い相手に向かって突進する。
「き、貴様っ、何奴!?」
咄嗟に突き出された槍頭をやり過ごし、前に出した左手で身体の内側にはたくように受け流す。
鋭い刃がギラリと陽光を照り返す。
目の前を通り過ぎていく槍を残った右手で掴み、ぐいと後方へと引っ張りつつ足を前へ進める。
槍の柄に沿って滑るように左手を伸ばしていくと、相手はこちらに背中を向けるような形になった。
槍は強いが、懐に入ってしまえばこんなものだ。
硬く握りしめた左手で裏拳を頭部めがけて放つ。
ガツンという衝撃。
相手の頭が跳ね上がる。
「――うぐっ!?」
しっかりと両足を踏みしめて、今度は右拳で顔を殴りつけると面具がひしゃげる。
首元を守る目の下頬の垂を左手で握りしめて相手の動きを制御しつつ殴る。
逃れようとするが構わず二度三度と殴る。
『主様。頭部を完全に破壊しました』
気が付けば相手の体から力が抜けていた。
ここまで一呼吸。
掴んでいた左手を広げると力を失った相手は地面に膝をつき、そのまま仰向けに倒れた。
大地が揺れる。
巨大なのだ。
なにしろ機巧武者の全高は優に四メートルを越えているのだから。
その機巧武者を圧倒する僕もまた鎧をまとった巨大な姿だった。
月輪に一つ葵の前立。
板を接いで留めた筋兜の天辺からは烏帽子の先端の代わりに葵色をした美しく長い髪のような房が飛び出している。
兜の側面には吹返と後頭部から首筋を隠す五段下りの錣。
両肩には葵色の糸で札を縅た大袖が垂れ下がり矢を遮る。
細かな草の文様の描かれた弦走韋の下は胴をぐるりと覆う胴丸で、草摺は徒歩でも動きやすい前が三間、後ろが四間の計七間。
三具として腕を覆う籠手と手甲、下半身の瓦佩楯、膝から下を守る脛当が防御力を高めている。
大鎧と当世具足のいいところを併せ持った形状の鎧武者姿だった。
心に届く声にうなずいて、次の敵に向かっていく。
まだ状況を飲み込めていないのか反応が鈍い。
すり足で一気に距離を詰める。
「お、おのれっ」
慌てて槍を構えようとするが遅い。
右の籠手を槍の柄に当ててかち上げる。
がら空きになった胴体に遠慮なく前蹴りを放ってやった。
胴がひしゃげる。
「ぐひ……っ」
轟音を立てながら倒れる。
見事にひっくり返った相手は空を見ることしかできない。
容赦せず、踵で頭部を踏み抜く。
びくんと一度大きく痙攣した後、機巧武者が動かなくなる。
「次だ――」
振り返った瞬間、目の端で光ったものがあった。
『主様。跳躍を』
大地を蹴って宙に舞う。
「飛び上がるとは愚かな! この槍で貫い――くっ、見えぬ!?」
太陽の光を直接見れば目もくらむ。
でたらめに槍を振るったところで当たるはずもない。
苦し紛れに振り下ろされた槍を上から踏みつける。
「しまっ――」
持ち上げようとしても無駄だ。
そのまま体重をかけて柄をへし折る。
攻撃手段を奪ったら、あとは追い詰めるだけだった。
あっという間に三体を処理した。
相手の攻撃はこちらにかすりもしなかった。
まったく問題はなかった。
圧倒的な差があった。
『主様。制圧しました』
「うん……」
ゆっくりと息を吐く。まだ緊張を切らすわけにはいかない。
打ち倒した機巧武者の姿は消えていた。
損傷が大きすぎて姿を維持できなくなったのだろう。
桜の花びらがちらちらと舞っている。
「僕たちも安全なところまで下がろう……その前にこの村の生き残りを探す方が先かな」
まだ生きている人がいたはずだ。
そもそも彼らを助けるために僕はここに来て、戦ったんだから。
だけど駄目だ。
すぐにでも意識が途切れそうだ。
体を動かそうと思っても、重くてどうにもならない。
ああ、視界が端の方から暗くなっていく。
このままだと動けなくなる。
動けなくなる前になんとかしないと。
せめて生きている人たちを安全なところにまで連れて行くんだ。
「生き残った……ひとたち、を……たすけ、て……」
目蓋が重い。
もう目を開けていられない。
『わかりました。生き残った人たちを助ければよいのですね』
「そう、だ……たすけて……あげて……」
すとんと意識が落ちた。
また暗い世界に包まれた。
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