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不動と二人で門で待っていた白糸様の前に立つ

 不動と二人で門で待っていた白糸様の前に立つ。


「おお、フブキ殿。突然邪魔をして申し訳ない」


 白糸様は立派な馬からひらりと降りた。実に様になっている。

 僕もいつか、あんな感じに馬から乗り降りしてみたいものだ。


「構いませんよ。今日はどのようなご用件でしょうか」

「これから城下町まで一緒にいかぬか」

「それは構いませんが……」


 見たところ護衛が一人もいない。

 まさかこっそりお忍びで来たなんてことは……ないといいなあ。


「城下町には人形を扱う店があるというのでな。この目で直に見ておこうかと思ったのだ。武士たるもの戦いの場に身を置き、領民を守らなければならない。父上の後を継いで私が国をまとめる時には機巧武者として戦えるようになっていたいのだ」


 遠くを見つめる白糸様の瞳は燃えるように輝いている。


「我が家が持つ天色の君の連れ合いとして私は選ばれなかった。そのことは残念だが、考えてみれば関谷には多くの人形がいる。だからその中には私を連れ合いと認めてくれる機巧姫がいるかもしれないと考えたのだ」

「なるほど」


 数撃ちゃ当たる方式か。

 ちょうど不動ともそんな話をしたばかりだった。


「それなら不動も同行させたいですね」

「フドウ? ああ、そこの鬼のことか」


 明らかに白糸様の態度に変化があった。

 不動に向けた視線はまるで珍しい動物に向けるようなものだ。

 不動は顔をこわばらせて直立している。


 ああ、それでかとさっきの澪の態度を理解する。


 澪たちの話しぶりや梅園さんの言動から、八岐と呼ばれる人たちがこの世界での被差別層であるのは容易に予想ができた。

 それでも操心館のような場所で共同生活を送っているのだから差別は露骨に表面化しない程度のものではないかと思っていたんだけど、どうやらそれは思い違いだった。

 差別というのは難しい問題だ。

 この世界で生まれ育ったわけではない僕では理解できない事情や感情があるのは容易に想像がつく。けれど今の態度はあまりによろしくない。


「白糸様。貴方は次の国王となる立場の方ですよね」

「ああ、そうだ」

「ここにいる不動は今でこそ候補生ですが、機巧操士となるべく日々鍛錬を積んでいます。つまり、いずれこの国を守る力となります。その者に対して先ほどの態度はいかがなものかと思いますが」


 自分の物言いが不敬にあたるのは承知の上だ。

 でも白糸様は今の僕を救国の英雄だと思ってくれている。ならば、それを利用しない手はない。


「む、それは……」

「兄貴、いいんだ。俺のことは気にしないでくれ」


 二人とも困惑の表情をしているが根本の部分は異なっている。

 白糸様は何故そんなことを言われなければならないのだというもので、不動はいらぬ波風を立てないで欲しいであろう。


「戦いになった時、白糸様は命令を下さなければなりません。戦えと。死んでもこの国を守れと」


 非常な決断を下すために国のトップとして王は君臨しているのだ。


「その命令を受ける側に立って考えてみてください。普段から誼を通じている好ましい人物からの命令と、嫌な奴だと思っている人からの命令。どちらならば命をかけられると思いますか?」

「……無論、好ましい人物からのものだろう」

「不動は鬼です。力ある者に従います。白糸様はこの国の次期国王ですから命令を聞くでしょう。ですが嫌いな人から死ねと言われて全力を出せるものでしょうか?」


 戦えという命令には従ってくれると思う。鬼は戦うことが好きな一族のようだし。

 要は嫌々戦うのと喜んで戦うこと。

 どちらがよりよい結果を得られるだろうかという話だ。


「現場で力を奮ってくれる知己を得ていると何かといいことがありますよ。僕も助けられたことは多いんです」


 常日頃からコミュニケーションを取っておくことは大切だ。

 ディレクターたる者、現場で手を動かしてくれる人たちと仲良くしておいて損はない。いざというときには泣き落としをしてでも力を貸してもらうことになるのだから。

 普段接点がない人からお願いされる場合と、雑談とはいえ話をする人。

 どちらの願い事を聞いてくれるだろうか、という話だ。


「そうなのか……いや、フブキ殿がおっしゃることだ。そうなのだろうな」


 納得がいったのか白糸様はうんうんと頷いた。

 それから不動の前に立って声をかける。


「私はフジカワ・シライトだ。そなたの名前を教えてもらえないだろうか」

「おぉお俺はオオヒラ・フドウです! お、鬼でぃす」


 あ、また噛んだ。


「そうか。フドウよ。これからもよろしく頼む」


 白糸様が差し出した右手を前に、不動はどうしたものかと悩んでいるようだった。

 目の前にある右手を見て、白糸様の顔を見て、また右手を見て、己の右手を見る。

 それでも次の行動に移れずに今度は僕を見る。だからゆっくりと頷いてやった。


「よ、よろしくお願いします!」


 両手で白糸様の右手を握ると頭を下げた。

活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

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