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今日は朝食を町でとることにした

 今日は朝食を町でとることにした。

 屋台も見かけていたので興味があったのだ。


「いやー、美味かった」

「屋台で食べるのもいいわね」


 定番の二八そばを食べたけど、太めの黒っぽい麺で、しかも盛りが多くてお腹がいっぱいになってしまった。

 手軽に食べられるし、しかもトッピングの数も豊富だった。


 ちなみに一杯八百圓程度。

 立ち食いそばとしてはやや高めの設定とはいえ現代の蕎麦屋とそこまで大きく変わらない値段なのも気に入った。


「今からその須玉匠のところへ行くの?」

「行くのは手紙の返事があってからだね。それまでにいろいろと準備をしておこうかと思って」

「準備?」

「その須玉匠と取引のあるお店が城下町もにあるって茅葺さんに聞いてさ。相手の人となりを教えてもらえないかと思ってね」

「なるほど。せっかくだから手土産は何がいいか聞いてみたら?」

「いいね。聞いてみよう」


 いくつかある通りを曲がると目的の場所が見えてきた。

 このあたりは通りに面して建物が解放されており、庇の下に机を置いて商品を並べている。


「ここって小物を扱ってるお店だよね。しかも、結構、いいお値段のする」


 看板には永寶屋(えいほうや)とある。

 澪の言う通り机には箱に入った綺麗な小物が並べられていた。


「なに? どうかしたの?」


 何事かと振り返ると澪の袖を紅寿が掴んでいる。


「え? 私たちを見てる人がいるの?」


 二人の会話を聞いて周囲を確認する。

 確かに道行く人たちの何人かは僕たちを見ているようだった。ただしその視線の多くは葵に向けられている。


「葵があんまり綺麗だからじゃないの。気にしない方がいいよ」


 葵を連れて歩いているとすれ違う人の多くが振り返る。それをいちいち気にしても仕方がない。

 ちらっと紅寿が僕の顔を見た後、握っていた澪の袖から手を放す。


「ご迷惑をおかけして申し訳ございません、主様」

「いいっていいって。そもそも葵が謝ることじゃないし」


 こういうのを体験するとゲームで高レアキャラを持っているユーザーの気持ちがなんとなくわかる。羨望の眼差しを向けられるのって心くすぐられるもんな。


「ごめんください」

「はぁい。あら、昨夜の」


 にっこりと微笑んで迎えてくれたのは居酒屋で会った紀美野さんだった。


「昨夜のお酒と食事は美味しかったです。こちらもアルバイト――お手伝いですか?」

「実はここ、わたしの家なんです。お父さん! お父さん! 昨日話した機巧姫だよ」


 紀美野さんが奥に向けて声をかける。

 土縁に置かれた箱の中には小物――(くし)(こうがい)、簪などが並んでいた。

どれも見事な細工がされている。澪の言っていたようにいいお値段がしそうだ。


「綺麗ねぇ」

「……っ」

「どれもキラキラしてます!」


 澪と紅寿と翠寿はそれぞれの瞳を輝かせながら商品の入った箱を覗き込んでいる。こういうところは年相応の女の子だ。


「葵も見ておいでよ。欲しいのがあったら買ってあげる」

「お気遣いありがとうございます」


 微笑んだものの葵は僕の傍から離れなかった。こちらの話に付き合ってくれるようだ。


「はいはい、お待たせしまし――おおおお! こ、これは……」


 奥から出てきた身なりのいい男性は葵に視線を向けたまま固まる。


「お父さん、しっかりして!」

「お、おう……あ、いや、申し訳ありません。娘から素晴らしい機巧姫を見たと聞いていたのですが、まさかこれほどのものとは……」


 言いながらも視線は葵に向けられたままだ。


「僕は不吹清正。それから連れ合いの葵です」


 紹介をすると葵がすっと頭を下げる。

 その仕草は無言でありながらも連れ合いである僕を立てている心根が表れている。

 店先の澪たちは嬌声を上げながら小物を見ているので紹介はいいだろう。


「これは失礼いたしました。永寶屋主人のナカイ・キショウと申します。今日はどのようなご用向きでしょうか」


 中伊さんの目が商売人のそれに変わった気がする。いい話を聞けたら何か購入することも考えておこう。


「実はこの国で一番と名高い須玉匠と会う予定になっているのですが、こちらのお店は先方と取引があると耳にしまして。そこでどんな方なのかを教えていただければとお邪魔した次第です」

「とは言いましても……」


 中伊さんの言葉に困惑の色が混ざっている。


「僕たちは操心館に所属しています。そこの調律師、茅葺さんからの紹介なんです」

「ああ、カヤブキ様の。そうでしたか」


 得心がいったようだ。

 素性の知れない人からいきなり取引先のことを聞きたいって言われても困るもんな。こちらの氏素性がわかれば話も早いはずだ。


「カヤブキ様にはご贔屓にしていただいています。なんでも聞いてください。この国一番の須玉匠といいますとリュウセンジ様のことですね」

活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

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