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君がどうやって彼女を手に入れたかは聞かないでおこう

20191104改稿。

「君がどうやって彼女を手に入れたかは聞かないでおこう。だからというわけじゃないけど、決して手放すなよ。彼女が敵に回ったらと考えるだけでも恐ろしいだろう?」

「もちろんです」


 葵がいなければこの世界で路頭に迷う自信がある。

 かけがえのないパートナーだ。


「古式の機巧姫は数百年前に神代式を真似て人間の手によって作られたものだ。当時の最高の勾玉を使い、一本の神木から削り出された逸品。神代式ほどではないが相当に強いよ。一説には千人の兵に値するそうだ」

「文字通り、一騎当千ということですか」


 そもそも五メートル近い機巧武者と歩兵が戦うのは無理があるんだけど。


「機巧姫として最高品質であるのは間違いない。深藍の君には会ったんだろう? 彼女は古式の機巧姫だよ」

「葵に比べると動き方や表情に違和感がありましたね」

「神代式と比べてやらないでくれるかな。あれも優秀な子なんだ。口数は多くないけど、主人を立てるいい子だよ」


 主人を抱き上げて去っていった後ろ姿を思い出す。

 梅園さんにはちょっともったいない子かもしれない。


「それからさらに時代が下って今は新式と呼ばれる機巧姫が作られている。古い機巧姫は戦火で失われてしまうから、現在稼働している多くが新式だね」

「新式も強いんですか?」

「神代式や古式に比べれば劣るとはいえ歩兵にとって脅威なのは変わらないさ。機巧武者を止められるのは機巧武者だけだ」


 大きいは正義だもんな。


「そういうわけで機巧姫を多数抱える国はそれだけ戦力があるとされる。優秀な機巧姫を手に入れるために戦が起きるなんてこともざらだ」

「でも機巧操士がいなければ意味がないんですよね」

「その通り。だから関谷では新たな機巧操士を見つけ出すために操心館を作ったんだ」

「でも成果はなし、と」

「意外に厳しいことを言うね?」

「あ、いや……すみません。そういうつもりではなかったんです」

「いいよ。事実だからね」


 不動のように鍛錬を続けていれば、やがて連れ合いとなる機巧姫と出会えるのだろうか?


「どういう人が機巧操士になれるんですか?」


 広幡館長によると、過去に機巧操士だった血筋の者とか、武芸百般を修めた優秀な人物がなんて言ってたけど。


「機巧姫の勾玉の色と機巧操士の魂の色が同じであればいい。だから同じ血筋の者が機巧操士になりやすいと考えられているわけだ」

「でもこの国の王である藤川様は何代も機巧操士になれてないそうですけど」

「それについては血筋が同じでも魂の色が全く同じとは限らないからというのが理由ではないかと推察している。その色についてなんだけど、機巧姫は固有の色を持つ勾玉を持っている。葵の君であれば葵色をした勾玉だ」


 胸の真ん中にあるのを見せてもらったので、それは知っていると頷く。


「この勾玉は機巧姫にとって最も大切なものでね。腕や足がなくなった程度なら修理できるけど、勾玉が壊れてしまうとそうはいかない」

「もしかして澪の機巧姫が直せないのはそれが理由ですか」

「察しがいいね」


 茅葺さんの口角がくいと上がった。


「この勾玉の色が機巧姫のすべてを決めるんだ。得意とする武具や戦い方、機巧武者の姿まで。そして勾玉と同じ魂の色を持つ者だけが機巧操士になれる」

「じゃあ、不動が機巧操士になるにはどうしたらいいんですか」


 一人で黙々と鍛錬を続ける仲間の名前をあげて問う。


「彼の魂と同じ色の勾玉を持つ機巧姫が現れるのを待つしかないね。魂の色に影響を及ぼすことができればなんとかなりそうなんだけど……なんでこんな設定にしたんだか」


 茅葺さんの口が自虐しているみたいに曲がっていた。


「そういえばお城で誰でも機巧武者になれる噂があるって聞きましたけど」

「それな。事実かどうか情報を集めている最中なんだ。僕なりに魂の色については研究していて、もしかしたらそのことに活かせるんじゃないかと思っているんだけど」


 おお。それが実現したら不動はきっと喜ぶだろう。


「水縹の修理が終われば澪も機巧武者になれるんですよね」

「そのことなんだけど、水縹の勾玉には歪みがあってね。それは優れた腕を持つ須玉匠(すだまのたくみ)でなければ直せないものなんだ」


 また僕の知らない設定が出てきたぞ。


「須玉匠というのは?」

「神石から勾玉を取り出せる技術者のことだよ。神木から人形の体を削り出して形にするのが人形師。その素体に化粧を施して人格と外見を与える者を化粧師。僕のような調律師はメンテナンス業者みたいなものだね」


 つまりそれぞれの工程において専門職がいるってことか。


「そこで君に頼みがあるんだ」


 茅葺さんは小さな箱を手に取る。

 蓋を開けると柔らかそうな布に包まれたものがあった。少し彩度が低いけど明るい青色をした五センチくらいの特徴的な形をした石だ。


「これが水縹の勾玉だよ。色が濁っているのがわかるかな」


 手に取って光にかざしてみる。言われてみれば濁っているかもしれない。


「僕は青藤の修理があって工房を離れるわけにはいかなくてね。事情を書いた手紙の返事が来たら君にこの勾玉を持って須玉匠の所へ行ってもらいたいんだが……どうだろう?」

「わかりました。その時は澪と一緒に行ってきます」

「助かるよ。淡渕にもよろしく言っておいてくれるかな」


 箱に入った水縹の勾玉を預かる。

 受け取りながら、なんだかゲームのお使いクエストみたいだな、なんて思った。

活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

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