夜道はどこまでも暗い
20191102改稿。
夜道はどこまでも暗い。
早速購入したばかりの提灯を葵に持ってもらって歩いていく。
街灯のない町は暗い。
たまに明かりが外に漏れているお店もあるけど、少し離れたら真っ暗だ。
気が付いたら澪は大人しくなっていた。
さすがにお姫様抱っこで移動するのは歩きにくかったので、今は背中に負ぶっている。
すぅすぅと一定のリズムで呼吸が首筋にかかってくすぐったい。どうやら寝てしまったようだ。
二人分の足音と澪の呼吸音だけが聞こえる静かな夜だった。
操心館の周辺はしんと静まり返っている。
昨日のお城帰りのときにも思ったけど、この辺りは住んでいる人の数が少ないせいか、とても寂しい。
そもそもここは軍事施設なわけで、防衛上の観点からするとそれが当たり前なのかもしれないけど。
「悪いんだけど葵は先に行って翠寿が寝ていたら起こしてもらえるかな。あとは寝る準備をして休んでいいから。僕は澪を部屋に置いてくるよ」
「わかりました」
澪の部屋に直接向かってもいいんだけど、紅寿に怒られそうだから翠寿というワンクッションを置こうと思う。
送り狼なんてしてないからね?
ここまでちゃんと連れ帰って来ているわけで、文句なんて絶対に出しようがない状況なんだけど、何事にも誤解っていうものがあったりするわけで。
石橋は叩いて渡る。これ、大事。
「ふわぁぁぁ……わふぅ。おかえりなしゃい、きよましゃさま……」
寝癖がついたままの翠寿が部屋の前で出迎えてくれた。
耳がぺたっとしていて、これはこれでとてもかわいい。
「寝ていたところ悪かったね。澪が酔っぱらって潰れちゃったから、隣の部屋の紅寿を起こしてもらっていい?」
「んにぃ、コウおねーちゃんをおこひてきましゅ……」
全然呂律が回ってない。悪かったなあ。
この世界では日が暮れて暗くなったらすぐに寝てしまう。そのかわり朝が早いんだけど。仕事だって基本的には昼過ぎで終わりだ。
…………あれ?
紅寿を起こしに行った翠寿が戻ってこないぞ。
せめて紅寿だけでも顔を出してくれたらいいんだけど。
「んぅ、むにゃ……すぅすぅ」
僕の背中では澪が気持ちよさそうに寝ている。
このままここで待っていても仕方がない。
澪の部屋にお邪魔して、布団を敷いて、寝かしつけて、さっと出てくれば問題ないだろう。
部屋の中も廊下と同様に暗かった。スイッチ一つで明かりがつくような照明器具はないのだから仕方がない。
目を暗闇に慣れさせようにも夜目が効くわけではないのでさっぱりだ。
仕方がないので、じりじりとすり足で確認しながら進んでいく。
レイアウトは基本的に僕の部屋と変わらない。
土間があるからまずは履き物を脱いで、足を引っかけないように上がって……お、足が柔らかいものに触れた。これは布団だな。
紅寿のことだ、澪が戻ってすぐに寝られるように布団を敷いておいてくれたのだろう。さすがは紅寿。気が利くな。
布団に沿って位置を変えていき、足先で誰も寝ていないのを確認する。
「よいしょっと」
ごろんと澪を布団の上に転がす。
「んむぅ~。んしゅしゅ。そんなのだめだよぉ~。そこは、まだなのぉ。んー、でもぉ、キヨマサ君なら……いいかなぁ」
どんな夢を見ているんだ。出演料はちゃんともらえるんだろうな。
風邪をひかないように掛け布団をかけてあげる。
澪は幸せそうな顔で眠っていた。
「いいよぉ。キヨマサ君ならゆるしてあげるぅ。うふふー」
何を許してもらったのか明日聞いてみようと思いながら部屋を後にする。
「そこは淡渕の部屋ではなかったかな?」
「ひゃう!?」
いきなり声をかけられて文字通り飛び上がりそうになるほど驚いた。
「か、茅葺さんですか……びっくりした」
「悪いわるい。驚かせるつもりはなかったんだ。許してくれ。だけど、そんなに大げさな反応をした理由が気になるな。何かやましいことでもあるのかな? たとえば酔いつぶれた女の子に手を出そうとか……」
「そ、そんなことあるわけないでしょ!」
「だろうね」
しみじみと納得するように茅葺さんは頷いている。
それはそれで傷つくというかですね。
「夜遅いけど少し時間をもらってもいいかな。君に頼みたいことがあるんだ」
「それは構いませんけど」
「ありがとう。その前に厠へ行かせて。なんなら一緒に行くかい?」
連れションのお誘いは丁寧に断らせていただいた。
活動報告にキャラクターデザインをアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。




