お酒のおかわり頼まない?
20191031改稿。
「お酒のおかわり頼まない?」
「いいよ。じゃあ、お酒を一つ」
「はい、かしこまりました」
澪はペースが速い。僕はまだ二杯目だっていうのに。
葵はあくまでお付き合いということなのか最初のお酒が残ったままだ。
つまり澪がほぼ一人でお銚子を空にしたってことになる。
「なんかねぇ、ここのお酒を飲んでると故郷を思い出すんだよね。木と山ばっかりのところだけど、こうして離れてみると、なんだか懐かしくてねぇ。うふふ……」
「澪の故郷ってどのあたりにあるの?」
「んーと、ここから北にずーと行った山の中だよ」
「はい、お待たせしました」
「待ってましたぁ~」
二本目のちろりがやってきた。葵が受け取ると澪のお猪口を満たす。
「私の村でも酒造りをしててね。毎年、新酒ができると私のところにもってきてくれて、それを飲むのが楽しみだったんだぁ」
「お酒好きなんだ?」
「うん、大好きぃ。えへへ。みんなが一生懸命造ってるんだもん。できたてのお酒を好きなだけ飲ませてもらえるなんて、すごーく贅沢でしょ」
「できたてのお酒か。いいなあ。一度飲んでみたいなあ」
「じゃあ、今度飲みに来る?」
家に寄って一杯飲んでく?みたいな軽いノリのお誘いだった。
「いいの?」
「いいよいいよぉ。美味しいお酒、い~っぱい飲ませてあげるぅ」
「でも澪の領地って遠いんでしょ」
江戸時代だと旅をする男性は一日に四〇キロ近く歩いたそうだから驚きだ。
日頃の運動不足もあって、徒歩による長距離移動には自信がない。
「それは気にしないで大丈夫ぅ。だって転移の〈門〉を使えばすぐなんだからぁ~」
ちょ、それは内緒だって自分で言ってただろ。
まったく、この酔っ払いときたら。
ご機嫌の澪はくいくいと杯を重ねていく。
「……いきなりお城に呼び出されてさぁ、知らない人ばっかりのところで生活しろって言われてね。でもヘキジュがいてくれたらなんとかなるかなぁって思ってたけど、今思えばあれって人質だったんだよねぇ」
頭をふらふらさせながら独り言をつぶやいている。
口の中で消えてしまうはずの言葉が僕の耳にも届いてしまった。
「八岐が暮らせる場所を知行として与えるなんて言われてもさ……私みたいな小娘にできることなんてなにもないのにねぇ。なんで私だったのかなぁ。もっと優秀な人はいっぱいいたはずなのに……鬼も人狼も土蜘蛛も……みんなみんな私にばっかり責任を押し付けて。本当にひどい話だよねぇ」
くいと杯を傾ける。
「やっと落ち着いてきたかなぁって思ってたらあんなことがあって……仕方ないと思うよ。みんな我慢してた。我慢してがまんして……できなくなっちゃった。あのときは本当にもうダメなんだなって思った。でもギリギリのところでなんとかなって……もしもあそこで死んじゃってたら楽だったのかなぁ」
ちょっとよくないお酒の入り方をしている気がする。
ペースを落とさせた方がよさそうだ。
「そしたら今度は機巧操士の候補として操心館に行けって言われてね。よくわからないうちに戦にまで駆り出されちゃって。〈手当〉だって万能じゃないのに。あー、でもソウゲン様を助けられてよかったなぁ。誰かの役に立てたんだし。そしたら今度は三桜村が襲われてるって連絡があって、慌てて駆けつけたらキヨマサ君が村を救ってくれたっていうじゃない。すごいなぁって思ったよ。私より年下なのに勝てないなぁって思っちゃった。でも私だってやらないといけないことがたくさん……だから……だから……」
ハイペースで飲み続けるのでお酒に強いものだと思っていたら、二本目を空にしたところでぱたりとひっくり返ってしまう。
「おい、澪。澪ってば。大丈夫か」
「らいりょうふ、らいりょうぶぅ~。れんれんよってまへーん」
酔っぱらいの酔ってない発言ほど信用のおけないものはない。
「ほら、お水をもらったから飲んで。まったく、自分の酒量ぐらい弁えておかないと」
「はいはい、申し訳ありまへぇーん。ろうせ私は自分がどのくらいお酒が飲めるかもわかってない小娘なんですよぉだ。あははは~」
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