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何度か洗い場と浴室を行き来する

20191028改稿。

 何度か洗い場と浴室を行き来する。

 澪に背中を流してもらうのは翠寿のときとは違う緊張感があった。

 手ぬぐいでしっかりガードしておかなければ、互いに顔を赤くしていただろう。


 すっかり気分もよくなったので、澪に断って二階へ向かうことにした。

 二階は男女別になっているので二人とは銭湯の外で合流予定だ。


 入浴料とは別にお金を払って二階へ上がる。

 基本はお風呂に入った後に訪れる場所だけど、お金を払えば入浴しなくても二階に来られるらしい。


「意外に広いけど天井は低いな」


 お茶を飲んだり、囲碁や将棋を指したり、本を読んだりして、湯上りのひと時を談笑しながら過ごしている。

 火照った体を冷やすためかラフな格好をしている人が多い。


「へー。ここは掲示板みたいな機能も果たしてるのか」


 壁には今でいうところのポスターが張り出されている。

 日用品、食事などなど。これを見れば市井の流行はある程度把握できそうだ。

 お店の人にお願いをすれば按摩――マッサージもしてくれるらしい。色んなサービスがあるんだな。

 キョロキョロしていると女性が近付いてきた。


「お風呂上りにお茶をどうぞ」

「ありがとうございます」


 茶碗を受け取って、窓際の場所を確保する。


「いい風が入ってくるなあ」


 春の柔らかい雨はもうやんでいた。風呂上りの火照った体に風が気持ちいい。

 壁を背にしてぐるりと視線を巡らせると部屋の一角を囲んでいる人だかりが目に入る。


「あ、もしかして……」


 江戸時代の銭湯の二階にはお風呂場が覗ける窓が取り付けられていたのは有名な話だ。


「下では落ち着いて見ていられなかったけど、ここからなら……」


 ぐびりと喉が鳴る。


「……湯気でよく見えねェな」


 既に窓枠を陣取っていた人物の呟きが耳に入った。

 男性は風呂に入らず二階へ来たらしく服をしっかりと着こんでいる。年の頃は三十ぐらいだろうか。手入れの悪い蓬髪を無理矢理撫でつけていた。

 袖口や袴の裾から見えている手足に十分な筋肉が付いているから町人ではなく武士なのかもしれない。

 左手首にはカラフルな数珠のようなものをつけている。ああいうのがこの世界ではおしゃれなのだろうか。


「ここからなら風呂の様子が見られると思ってわざわざ来たっていうのに、まったく見えねェじゃないですかい」


 未練がましく体を乗り出して一階を見下ろしている。

 そんなに必死になってまで見たいものなのかなあ。武士だと体裁とかあるのかもしれないけど。

 見られないのならわざわざ覗きに行くこともないだろう。

 ……別に悔しいとか残念とか思ってないからね?


「ずず……ふう。まったりできていいなあ」


 外を見ると空が赤くなり始めていた。そろそろ二人も出てくる頃合いだろう。お茶を飲み終えて下に降りる。

 外で道行く人たちを眺めながら待っていると暖簾をくぐって二人が出てきた。


「ごめんごめん、待たせちゃったかな」

「僕も出てきたばかりだよ」

「主様。銭湯はいかがでしたか」

「なかなかよかったよ。葵は二階に行ってたそうだけどどうだった?」

「お茶とお茶菓子をいただきました。美味しかったですよ」


 そういえばお菓子の張り紙もあったな。次に来た時は購入しよう。何事も経験だ。

 美味しそうな匂いが漂ってくる。匂いに釣られて盛大に腹の虫が鳴いた。


「よかったら食事していかない? 葵もどう?」

「はい。お付き合いいたします」

「澪は?」

「いいわよ」

「じゃあ、澪のおすすめのお店があったらそこに行こう」

「いいわよ、任せておいて。安くておいしいお店が近くにあるの」

活動報告にキャラクターデザインをアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

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