並んで待っていると、ぽんと肩を叩かれた
20191027改稿。
並んで待っていると、ぽんと肩を叩かれた。
「はやいのね」
「み、澪……」
僕の後ろに並んでいたのは澪だった。
当然、澪も裸だ。
堂々としたもので前を隠す素振りすらない。
「どうかした?」
「あー、いや。なんでもない……よ」
あれ? 光は? 謎の光は仕事をしないでもいいんですか?
もしくは湯煙とか、シャンプーのボトルだとかでもいいんですけど!
だってこれではブルーレイ版ですよ! 全部見えちゃってますよ!
視線を下へ向けていく。
腰はきゅっとすぼまっていてお腹のあたりはすっきりしている。
腹筋が割れているということはないけど、戦う者として鍛えているからだろうか。お尻へ続くラインは女性的ではあるけど無駄のない体つきだと言えた。
「なによ、ジロジロ見たりして。どこかおかしいところがあった?」
そう言いながらクルリと体を回して確かめている。
おかげで僕は澪の体を余すことなく拝見することができた。
あ、やばい。こんなの見せられたら元気になっちゃう。
落ち着け、落ち着くんだ。
こんなところで愚息の元気な姿を見せるわけにはいかない。
「ほら、まずは湯船につかりましょ。頭をぶつけないようにしてね」
板をくぐり抜けようとする澪が頭を下げる。
それに続こうとしゃがみかけ、思わず顔を上げてしまった。
「あっ」
ゴンという鈍い音。
「痛い……」
「だから気を付けるように言ったのに。結構、石榴口に頭をぶつける人っているんだよね」
湯船があるこの部屋は狭くて窓がない。
だから光源と言えるのは石榴口ぐらいなもので非常に暗かった。隣にいる人の顔がうっすらわかるぐらいだ。
屈まないと入れないようになっているのは湯船のお湯を冷めにくくするのと温まった蒸気を逃がさないようにするためなのだそうだ。
おかげで澪と湯船に並んで入っていても冷静でいられる。
これならテレビ放送時には仕事熱心な湯気も落ち着いていられるだろう。
「キヨマサ君のところにも銭湯ってあったの?」
「あったけど、こことはかなり違うね。男女別だったし」
「そうなんだ。男女をわけるところもあるって聞くけど、薪がもったいないからほとんどが混浴なのよね」
ぱしゃっと水音がした。
「今の時間は女の人が多いみたいだね」
「夕方前だからね。男の子はちょっと肩身が狭い感じ?」
「そうだね。ちょっとだけ」
本心を言えば肩身が狭いどころの話じゃないんですけどね。
冷静になって思い返してみれば、洗い場にいた人たちってほとんど女の人だったもんな。男の人たちは隅の方に追いやられていたように思う。
「澪は銭湯によく来るの?」
「最近はそうでもないかな。操心館ができてからはあっちで入るようにしてるし。だってお金がかからないもんね。入浴料は安いとはいえ、お金は無駄にできないし」
安くて品揃えがいいお店もよく知っているし、経済観念がしっかりしている。無駄遣いはしないに越したことはないもんな。
「そういえば葵はどうしてるの?」
「この銭湯は女性も二階に行けるからそこに行ってもらったよ。機巧姫が銭湯に来ることなんてないから、みんな驚いているんじゃないかな。でも葵の君だと機巧姫だって気が付かれないかもね。あは、さすがに髪の色でわかるかな」
そういえば江戸時代の銭湯には二階があって、そこは男性のみが入れる社交場のような場所になっていたという資料を目にしたことがある。
せっかくだし、お風呂を出たら行ってみようかな。
「葵が退屈しているかもしれないし、早めに上がった方がいいかな」
「もう少しゆっくりしない。しっかり汗をかいてからじゃないと気持ちよくないし」
こちらの銭湯ではまず湯船に入って体を温め、それから洗い場で体を洗い、また湯船に入って体を温め、洗い場で洗うというのを繰り返す。
最後に綺麗なお湯を体にかけてあがるのだそうだ。
「ぬか袋も買ったの?」
「うん、あるよ」
「よかったら私にもそれ貸して。そのかわりにキヨマサ君の背中を洗ってあげるから」
ざばりと水音を立てて澪が立ち上がった。
活動報告にキャラクターデザインラフをアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。




