化粧品ってとっても高いんだよ?
20191024改稿。
「化粧品ってとっても高いんだよ? いくら葵の君のためだって、そんなに散財したら……」
「大丈夫だ、問題ない」
妹用に一式買い揃えたことがあるから、おおよその相場は知っている。
基礎化粧品は今使っているのがあるから、ファンデとアイシャドウと口紅だけでいいなどと妹は言ったけど、あえて一式を買った。
しめて八万円也。妹の大学進学祝いだから高いなんて思わなかった。
「葵にはこれから苦労をかけるだろうから、その前払いだと思っておいて」
なんて茶化しておいてウィンク一つ。
が、葵は深々と僕に向かってお辞儀をしていたために華麗にそれをスルー。
「ありがとうございます、主様。大変、嬉しく思います」
「お、おう……」
カッコがつかないことこの上なかった。
「こちらなどいかがでしょうか。小物から鏡台までが一式揃っておりまして、しかもすべて同じつくりになっております」
店の奥から戻ってきたおそめさんの手には四十センチ四方ぐらいの箱があった。
箱の表面には綺麗に草花の絵付けがされている。
上部の蓋を開けると鏡台にもなり、引き出しには刷毛や小皿、紅猪口、白粉の入っている陶器の器なども収められている。
「うん、いいね」
「や、でもこれ、絶対に高いって……」
澪の顔には青い縦線が入っているかのようだ。
大丈夫だって。お金を出すのは僕だから。
「葵はどう?」
「はい、気に入りました。絵に葵が入っているところが特にいいですね」
よくよく見てみると箱の表面や小物に描かれているのはタチアオイをデザイン化したもののようだった。
「葵の君とお名前を伺いしましたので、こちらでしたらぴったりかと思いまして」
なかなか耳敏い人だ。商売人としてよい才覚の持ち主なのだろう。
「じゃあ、その化粧箱と、こっちの紅猪口も一つお願いします」
「口紅を二つも買うの?」
「うん。澪の分をね」
「……え?」
「澪にもいろいろお世話になってるしさ。そのお礼ってことで」
「え、だって……口紅って高いんだよ?」
「知ってる」
ひとつ三万圓だもんな。
「私、そんなのもらえないよ」
お礼の品の金額が大きすぎるのは相手の負担にもなるか。
僕としては感謝の気持ちとして、形あるものを送っておきたいだけなんだど。
弱ったな。こういうとき、どう説明をして女性に納得してもらえばいいかわからない。
人生経験においてこんなシチュエーションがなかったからなあ。妹のときは大学進学記念だったから参考にならないし。
密かに心の中で頭を抱えていたら、葵がフォローをしてくれた。
「澪様も化粧品はお持ちなのでしょうか」
「うん。基本的なのは持ってるよ。もっとも、私の住んでたところはこんな立派なお店はなかったから、背負い小間物屋から買った物ばかりなんだけど……」
「それでしたら吾に化粧のやり方を教えていただけないでしょうか」
「化粧を?」
「はい。吾は化粧を自分でしたことがありません。ですから澪様に教えていただけると大変助かるのです。化粧の先生になっていただけないでしょうか」
「ええ!? そんな、私が先生だなんて無理だよ。それにそういうのは普通、専門の化粧師がするものでしょ」
「操心館にはいらっしゃらないようでしたので」
「あ、そう言えば……でもでも私なんてお化粧下手だし……それに私のやり方は小間物屋の人に教えてもらった程度だから……」
断ろうとしている澪におそめさんが声をかける。
「どちらから購入されていたのかは存じ上げませんが、各地を訪ね歩く行商人は最新の化粧品の使い方を熟知しているはずですよ」
ほほう、この世界では訪問販売までしているのか。
売り物が大きくて持ち運べないような場合はカタログを見せてそれで売買契約なんてこともできそうだな。もっとも双方に信用がある場合に限るけど。
「そ、そうなんだ……でもお化粧なんてほとんどしないし……」
「そうですねえ。お客様の場合ですと、もう少し白さを強くして、鼻の高さを強調するようなお化粧にすると映えると思いますよ。白粉をよく溶かしてから塗るのがコツです」
「あ、ありがとう……ございます」
活動報告にキャラクターデザインラフをアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。




