思案顔で澪が首を傾ける
20191015改稿。
思案顔で澪が首を傾ける。
「他に行ってないところといったら……調律師のカヤブキ様のところに顔を見せておくぐらいかな」
操心館の玄関で会った仮面の人か。
「でもしばらくは行かない方がいいと思うぜ。なにしろ機巧姫の修理で忙しいだろうからさ」
「それもそうね。私の水縹にソウゲン様の青藤の君も直していただかないといけないし。むしろカヤブキ様の体調の方が心配よね」
「なんだ、姉貴は調律師の兄ちゃんにほの字なのか? あんまり強そうには見えないから、やめておいた方がいいと俺は思うぜ!」
ほの字なんて本当に言うんだと感心していたら、澪の顔色が面白いことになっていた。
「ちょ、そそそそんなことないんだからねっ」
なんてわかりやすいんだ。耳まで赤くしてるじゃないか。
「だ、だから違うんだってば! キヨマサ君も訳知り顔して私を見ないで! 違うの! 違うんだって! ただカヤブキ様を見ていると、どこか懐かしいっていうか、頼りがいがあるなぁって思ってただけなんだからねっ」
あー、これで普段はツンツンしてたら見事なまでのツンデレなのになあ。
澪は冷たい態度なんて基本的にとらないから、ツンデレカテゴリーに入らないのが残念だ。
「なるほど。大平さんの言うことに僕も賛成だな」
「なあ、兄貴。俺のことはフドウって呼んでくれよ。その方がカッコいいだろ?」
「……不動の言うことに賛成だな」
言い直すと、嬉しそうに不動が笑った。
こいつ、かわいいな。いや、僕に男色の趣味はないけども。
「オオヒラ様の――」
「姉貴もフドウって呼んでくれ!」
「えっと、フドウ様の――」
「フドウって呼んでくれ!」
「……フドウの言うことって?」
澪の根負けだった。
「機巧姫を修理している茅葺さんの邪魔はしない方がいいだろうってこと。この先のことを考えるとさ」
「この先?」
「霧峰国にしろ白相国にしろ、あれで終わりってわけじゃないと思うんだ。数年ぶりに攻め込んできたってことは何かの目的があったわけだ。戦力を増やして戦う準備が整っただとか、何か欲しいものがあって関谷を攻めようとしているのか、そこまではわからない。でも前回の戦いでそれを達成したとは思えないだろ。だから機会を伺ってまた攻めてくると思うんだよ」
「やっぱり来るのかしら」
「来るよ。間違いなく」
そうでなければ収支はマイナスだ。成果を上げる必要がある。だから再侵攻は必ず起こるだろう。
「戦いたいっていうのなら俺が相手になるぜ! 今回は留守番だったからな。身体が鈍ってたんだ!」
「でも、機巧姫がいないと話にならないわよ」
「うっ、それはそうだけどさ……俺を連れ合いにしてくれる機巧姫がなかなかいなくてさ……」
候補生に適切な機巧姫を見つけるところから始めないと駄目なんだろうな。
さて、それにはどうしたものか。
まずはどうやったら機巧操士になれるのかを明らかにしなければいけないんだけど、そこはゲームと同じなのだろうか。
「こんなところにいたのか」
それは低く抑えた声だった。
振り返ると、入口に人影が二つ見える。
「ふん、早速大きな顔をして構内を歩き回っているとはな。誰の許可をもらっている。それに穢れた血を引く連中と呑気に立ち話だと。ちっ、道場の品格が落ちるわ」
澪の顔から表情が消え、不動は面白くなさそうに鼻を鳴らし、翠寿が怯えたように僕の背後に隠れた。
よし、翠寿を怯えさせた以上、こいつは僕の敵に決定だ。
たとえその声が地獄の番犬を彷彿とさせようとも、だ。
「ウメゾノ様。もう体調はよろしいのですか」
澪の問いかけに返事はない。むしろ蔑むような目で澪を睨め付けている。
「深藍の君も何事もないようですね」
返事がなかったことも気にせず、澪はもう一人にも声をかけた。梅園さんの半歩後ろに控えている機巧姫が頭を下げようとする。
「不要なことはするな」
叱責するような声にその動きが止まった。
梅園さんは立派な体躯をしている。一八〇センチはあるだろうか。
制服の上からでも胸や肩に十分な筋肉がついているのがわかる。立ち居振る舞いにも隙がないように見えた。
腰には反りの強い太刀を佩き、小刀も差している。侍と言われれば、なるほどと思える雰囲気を持つ男だった。
後ろで一つに束ねた髪の下にある顔つきは精悍といえばよいのか獰猛と言うべきか。戦う者としての気概を感じさせる顔つきだ。
一方の深藍の君は、肩のあたりで切り揃えられた髪と、ぼんやりとした表情のせいでやや幼く見える。
梅園さんとの身長差もあって、最初は子供ではないかと思ってしまった。
葵以外に初めて機巧姫を目にしたわけだが、なるほど、これは一目で人間ではないとわかる。
髪の色が自身の名前と同じだし、表情が固くてほぼ固定されているのだ。
また動きもギクシャクというのではないが、どこかに違和感がある。まるで3Dデータで作成したキャラがアニメに登場したときのような奇妙さ、浮いた感じがあるのだ。
これが機巧姫の一般的な姿なのだとしたら、葵を見た人たちが本当に機巧姫なのかと疑った気持ちがわかる。
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