昨日は姉貴も大変だったんだろう
20191014改稿。
「昨日は姉貴も大変だったんだろう。でもいいよなー、姉貴は。戦に行けてさ。俺も行きたかったよ」
澪は困ったような顔をしていた。
そりゃ、戦争は行かないですむのならそれにこしたことはないだろう。
大平さんはチラチラと僕を見ている。
なんだろう。初対面なんだけど、気になることがあるんだろうか。
「なあ……もしかして、そっちの奴が噂の操士なのか? 敵の機巧武者を三旗も倒したっていう」
「はい。こちらがフブキ・キヨマサ様。それと連れ合いの葵の君です」
「お、おお……マジか……すげえ。こんな若いのに……」
目をキラキラとさせて見ているのは――僕か?
今までは葵にばかり視線が集まっていたから、ちょっと新鮮っていうか、なんか照れるな。
「不吹です」
「お、俺は! オオヒラ・フドウっていいます! お、鬼です!」
声、でかいでかい。でかいって。
そんな大声で言わないでもわかるから。
ごしごしと右手を手ぬぐいで拭うと、僕の前に差し出す。
「あの! 握手してくらさぃ!」
あ、噛んだ。
微笑ましいなあ。握手ぐらいならいくらでもしてあげるのに。
手を握る。
ゴツゴツして、分厚い手をしていた。
鍛錬を積んだ者の手だ。
ぎゅっと力を入れると、大平さんも力を入れてくる。
なるほど、鬼らしく力比べというわけか。
ここは舐められないためにも全力で応えさせてもらおう。
「くっ、こんな……すげぇ、くくぅ、この俺が力負けする、のか……だけどこのまま負けるわけには……」
意外にも善戦できていた。
こちらはそこまで力を入れているわけでもないのに、大平さんは顔を真っ赤にしている。
「ぐ、ぐぐぐぐぐぐ……」
んん? さっきより握力が強くなっているような。
大平さんの瞳が赤く光っているのに気が付いた。
これはどういうことだ。急に握力が強くなってるぞ。
それでも力負けはしていない。まだ余裕がある。
「そ、そんな……これでも勝てない、のか……」
しばらくそうして力比べをしていたが勝敗は決した。
時間をかけて互いに力を抜いていき、それから手を放す。
大平さんは痺れているのか右手をブラブラさせていた。
僕の方は平気だ。でもこんなに腕力あったっけ?
「あんた、すごいな! まさかこの操心館に俺より力が強い人がいるなんて思わなかった。しかも〈金剛〉を使っても勝てないなんてなあ」
「こんごう?」
「ああ、俺は鬼だからさ。腕力とかを一時的に高めることができるんだよ。普通の奴なら手の骨が砕けてもおかしくないのに、あんたは本当にすごいよ」
笑ってるけど、何気に怖いことを言ったよね?
自分の手を見て握ったり開いたりしてみた。問題はない。
もしかしたら身体能力が向上している?
もともと体力全般に自信があるわけではない。むしろ座り仕事だったから体力はない方だろう。
でも大平さんの言っていることが事実なら、今の僕の腕力はかなりのものってことになるんだけど。
「ところで鬼っていうのは……あの鬼のこと?」
「そうだよ。オオヒラ様は鬼の一族なの。鬼っていうのは力を貴ぶ人たちだから、力比べをして自分より上だと相手を認めたらなんでも従うというか……」
紅寿や翠寿たちの人狼に続いて鬼ときたか。
ここは明らかにゲームと違う部分だ。どういう経緯で実装されたのか気になる。
「これからはあんたのことを兄貴って呼ばせてくれ!」
「僕を?」
「ああ、そうだ! だって俺より兄貴のが強いからな!」
なるほど。鬼は脳みそまで筋肉の一族なんだな。把握した。
「なあなあ、兄貴。どうやって敵の機巧武者を倒したんだ? やっぱり弓か? 弓は卑怯だと思うんだけど、この国の奴らはみんな弓がいいって言うんだ。青の国って言われているからわからなくもないけどさ。ソウゲン様ぐらいだな、俺に同意してくれるのは」
「青の国っていうのは?」
「関谷は弓術が盛んだからね。それで青の国って言われているんだよ」
おっと、ここでもゲームの設定に似た話が出てきたな。
ゲームでは色によってキャラクターの得意とする武器が決められていた。
赤は刀、緑は槍、青は弓って具合だ。それがこういう形で反映されているとはね。なかなか面白い。
「それで、兄貴はどうやって倒したんだ。教えてくれよ」
「素手で倒したよ。武器がなかったからね」
「すげぇ! 本当に兄貴はすげぇんだな! やっぱり組討か? 力比べって感じがするし、俺は好きなんだけどな!」
「基本的には立ち技で、相手の体勢を崩しながら殴る蹴るだったかな」
葵に顔を向けると、その通りというようにうなずいていた。
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