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本来、絶望的な状況なのだ

20191002改稿。

 本来、絶望的な状況なのだ。

 この陣に攻め寄せる敵機巧武者の数はこちらの何倍にもなる。さらに歩兵も二倍以上が動員されている。

 相手より多い兵を揃えて戦うのは基本中の基本。

 この基本を守れている以上、数で押しつぶせばよいという敵の戦術は何も間違っていない。


 もちろん、澪たちもただ手をこまねいていたわけではなかった。

 敵が国境を超える前から物見の兵を張り付かせ、少数の斬り込み隊によって敵補給部隊を繰り返し襲撃した。

 相手を挑発し、夜討をし、時間を稼ぎ、この日、このとき、この場所へ誘導したからこその状況である。


 戦力差はあるが策もなく戦っているわけではない。絶望もしていない。

 だから今はただ己の役目を果たすのみである。


「わかっていたことではありますけれど、こうも数が多いというのは……簡単にはいかないものですね」


 孔雀青に深藍が並ぶ。


「だが、ここまでは互角以上に遣り合えている。問題はないだろう」

「状況がこのまま推移してくれれば、ですけどね」


 澪の言葉に二旗の機巧武者がうなずいた。

 いまだに薄氷を踏む状況であるには変わりがない。


「俺たちは俺たちの役割を全力で果たすだけだ。ここで敗れれば我が国は終わりだからな。戦いの目標は明確で、主導権を握り、戦力を集中させ、指揮系統は明確になっている」

「数の優位が活かせない位置に陣を敷き、補給を遮り敵軍の士気は落ちていますしね。ふふ。本当に驚きです。わたくしたちも敵も、まるで(まじな)いでもかけられたかのよう」


 全長が五(メートル)ほどもある人の姿をした機巧武者は戦場における決戦兵器である。

 ここに集結した澪たちの機巧武者をすべて倒しさえすれば、歩兵などあとからどうとでも処理できるという相手の思惑は正しい。

 正しいからこそ前提である目標を達成させるわけにはいかなかった。

 そのための戦力の集中であり、戦場の設定である。


 敵は弓を防ぐ巨大な竹束(たけたば)を担ぎ出し、身を隠しながら少しでも距離を詰めようとしていた。


「ちぃ、小賢しいマネを!」


 景虎が放った矢は分厚い盾に阻まれて敵に届いていない。

 強弓を持つ笑の矢ですら弾かれていた。


「弓を得意とする関谷を攻める以上、弓矢に対する準備くらいはしてきますよね」

「感心している場合ではありませんよ。さすがにあれはやっかいです。曲射をしようにもこの人数と距離では効果はあまり望めないでしょうし」


 このままでは遠くない未来、敵の機巧武者が陣を突破するだろう。

 そうなればもともと数に劣る澪たちに勝ち目はない。


「縄を切れぇい!」


 広幡から指示が出される。

 丸太を束ねる足元の縄を景虎が腰に差していた小太刀で切った。


「これでも喰らえ!」


 滑り始めた丸太を蹴ると、ガランゴランと重い音を立てながら坂を勢いよく転がり落ちていく。

 ガゴゴン!という鈍い音が眼下から聞こえてきた。


「一段下がるぞ。遅れるな!」

「応!」


 丸太の仕掛けはまだいくつか残っている。

 相手からの矢を防ぐ壁であり、転がり落として攻撃する武器であり、足止めをする罠でもある。

 こうして一旗でも多く敵の機巧武者を落とし、遅滞作戦を行うのが澪たちのここでの役割だった。


(お願い……はやく……はやく来て。もうそんなに時間は稼げそうにないから……)


 この作戦を授けていった者に心の中で呼びかける。


『ミオ、心配はいりません』

「どうして?」

『何故なら、あの方には神代式の機巧姫がついていらっしゃるのですから。彼女がお側にいる限り、心配は無用なのです』

「……そうだね。本当に」


 圧倒的不利な状況にあってなお、彼は笑うことを忘れなかった。


「今は戦おう。彼を信じて……」


 関谷国の存亡をかけた戦いは最終局面をまだ迎えてはいなかった。

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