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さて、ようやく一人になれた

20191010改稿。

 さて、ようやく一人になれた。

 正確には一人と一体か。


「長かった一日がやっと終わるわけだけど、その前に少し話をしようか」

「わかりました」


 僕の前に葵が正座をする。

 その仕草ひとつをとっても、とても人形だとは思えないほど滑らかで自然な動きだ。

 葵を見た人が一様に驚くのも無理はない。


「まずは確認から。ここは僕が作ったゲームの『カラクリノヒメ』にとてもよく似ている。でも違うところもある。そうだね?」

「はい」

「それで、葵は何をどこまで知っているの?」


 根本的な疑問を解消しておきたかった。

 流されるまま状況を受け入れて、それはそれとして納得してはいる。でもこの確認は大事なことだ。

 ただなんとなく雰囲気に合わせるのと、きちんと覚悟を決めて臨むこと。両者において過程と結果に大きな違いが出てくるのは仕事でもよくある。

 そこを自分の中ではっきりさせておきたかった。


「多くのことを知っているわけではありません。ですが、()が望んだから主様(ぬしさま)がここにいる。それは真実です」

「どうして僕を望んだのさ。他にも候補者はいたんじゃない?」

「いいえ、最初から吾には主様しかいませんでした」


 ふむ。嘘を言っているようには見えない。

 もっとも人形の表情や声音から嘘かどうかを見抜く技術を持ち合わせていないから、ただの直感に過ぎないけど。

 最初から選択肢を制限されていて、僕を選ばざるを得なかったという可能性は考慮しておく必要はあるだろう。


「そもそも機巧姫が機巧操士と出会うのは必然です。主様の魂の色と、吾の持つ勾玉の色が同じなのですから」


 しゅるりと布がこすれる音がすると、葵は襟元を緩めてみせた。

 真っ白い肌が目にまぶしい。わずかに朱が差しているのがわかる。

 とてつもない色香を放っていた。

 いや、今はそういう場合ではない。

 見るべきは――


「葵色の勾玉(まがたま)……」


 葵の胸の中央には葵色をした大きな勾玉が埋め込まれていた。

 ゲームの設定と同じ、か。

 機巧姫には必ず固有の色を持つ勾玉が埋め込まれている。そして勾玉と同じ色の名前が与えられる。

 勾玉は彼女たちの生命の源であり、これが破壊されたときに機巧姫は死を迎える。


 一方、機巧操士の魂にも特有の色がある。

 機巧姫の勾玉の色と機巧操士の魂の色が同じとき、一騎当千の強大な力を持つ機巧武者となることができるのだ。

 もっともゲームの主人公はどの機巧姫ともパートナー――連れ合いになれる設定だった。主人公の特権というやつだ。でもこの世界では違っている。


 違うのはそれだけじゃない。ゲームと異なる部分はそこかしこにある。

 例えば澪や紅寿たちのような八岐という存在。僕の知らない技能に移動システム。

 未知の存在が目の前にある。それにクリエイターとしてワクワクしないはずがない。


「それで僕の目的だけど――」

「この世の戦乱を終わらせることです」

「……その目的設定をしたのは誰?」


 葵は初めて出会ったとき、僕に「戦って生き残らなければならない」と言った。


『とある小国にて一人の機巧姫と主人公は出会い、戦乱に終止符を打つべく立ち上がった……』


 ゲームの謳い文句として『カラクリノヒメ』でその文言(コピー)を書いたのは僕だ。


 関谷は小国だ。

 機巧姫――葵の君と出会った。

 そして目的は戦乱に終止符を打つことだと言われた。

 すべてゲームと同じ状況になっている。


 この世界のベースは『カラクリノヒメ』によく似ている。

 もちろん違うところもあるけど、それらの多くはゲームで設定されていなかった部分だ。この世界が破綻をしないように上手に補っているとも言えた。


 僕の懸念は、僕自身が知らないうちにこの状況に自分を引き込んでいるのではないかということだ。


 正直、ここに来たことはゲームクリエイターとして美味しいと思っている。

 この世界で見たこと、聞いたこと、体験したことをゲーム制作に反映したい。

 僕は根っからのゲーム屋だ。面白いゲームを作りたい。そのために調べ物をしたり、様々な作品に触れたりしてきた。


 ここでの経験は貴重だ。

 本を読んだりネットを見たり取材旅行に行ったりするよりも多くのことを僕は学び、体験することができるのだから。


 だからこそ前向きに目標に向かって取り組みたいと思っているし、望んで脇道に逸れてこの世界を味わい尽くしたいのだ。

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