ねー、キヨマサさま
20191009改稿。
「ねー、キヨマサさま。ひとつお願いしてもいいですか」
ひとしきり畳の上ではしゃいだ後、翠寿が正座をして僕を見上げる。
「僕にできることなら」
「うんっ。あのねあのね……」
指先をもじもじ絡ませる仕草もかわいらしい。
本当に何から何まで翠寿はかわいいなあ!
「あたし、キヨマサまさにおつかえしたい、です」
「……へ?」
「……え?」
僕は澪と顔を見合わせる。
「あたしはコウおねーちゃんみたいに上手じゃないけど、いろいろとしらべたり、騒ぎをおこしたり、人を殺したりできます。なんでもします。だからキヨマサさまのちかくにおいてください。お願いします」
諜報に陽動に暗殺か。
まさにお話の中の忍者そのものだ。『清正の忍び』とかいうタイトルでコミカライズしてもらえないだろうか。
そりゃ、そういう役割を果たしてくれる人がいるのはこの先助かるだろうけど、暗殺みたいな血なまぐさいのを翠寿にしてもらいたくはないなあ。
それよりは逆に暗殺者から守ってもらうとか、身の回りのことをやってもらうとか、一緒にお風呂入ってもらう方が――最後のはなしにしよう。澪に殺されかねない。
「ねえ、スイジュ。もしかしてまた誰かにひどいことを言われたの?」
「ううん。なんにもいわれてないです。ただ、コウおねーちゃんはミオさまのおつきでしょ。あたしもミオさまにおつかえしたいなーっておもってたの。でもね、あたしはコウおねーちゃんじゃないからあんまりミオさまのお役にたてないかもって思って。だったら他の人におつかえするのがいいのかなあって」
「そんなこと気にしないんでいいんだよ。スイジュは私の家族なんだもん。ずっと近くにいてくれるだけでいいんだから」
翠寿に言い聞かせている澪の表情は必死だった。
そんな重く考えないでもいいんじゃないかと思うんだけどなあ。
あ、もしかしたら僕が信用ならないから必死に説得しているとか?
「ミオさまとキヨマサさまはなかよしでしょ? だからキヨマサさまならいいかなって思ったの。コウおねーちゃんからききました。キヨマサさまはすっごく強いけど、とってもへんな人だって。いろんなことを知ってるけど、知らないこともある人なんだって。それにね、キヨマサさまはおつきもいないみたいだし、あたしでもお役にたてるかなあって思ったの」
うん? それって僕の方が澪より人間的に情けないから活躍の場所がありそうだってことだよね?
否定はしないけど、ちょっと悲しいですよ、神。
「……どうして?」
ひやりとしたものが背筋を撫でるかのような冷たい声だった。
「……澪?」
「どうしてそういうことを言うの。私、スイジュのこと大事に思ってるのに」
「うん、しってます」
「だったらどうしてなの。私のこと……嫌い?」
「きらいじゃないです」
「なんで、なんでなの……私、ちゃんとやろうと思ってるのに。みんなのために頑張ってるのに。どうしてそんなこと言うのよ……」
澪の両手が伸びて翠寿の肩を握り締める。
「コウジュと一緒じゃ嫌なの? もしかしてケンカしちゃった? だったら私がコウジュに命令する。スイジュと仲良くしなさいって。お仕事を分担してやりなさいって」
「コウおねーちゃんはあたしを大事にしてくれてます。それにおねーちゃんのお仕事をとっちゃだめです」
「私だってスイジュのこと大事にしてるのに……私に仕えるのが嫌なら領地に戻ってもいいから。あっちにもたくさんやらないといけないことがあるから。それでいいじゃない。ね。ね?」
困ったような顔をして翠寿は澪を見つめていた。
「ミオさまにはいっぱいごめいわくをおかけして、おかえししないといけないご恩もたくさんあって、だからミオさまのお力になろうねっておねーちゃんたちと約束しました。だからほんとはあたしもミオさまのお仕事をお手伝いしたいです。でも、コウおねーちゃんがいるとあたしのやることあんまりなくて……ミオさまのお力になれなくて。だからだから……」
「そんなことないよ。スイジュがいてくれて私は嬉しいから。いつもお日様の匂いをさせてるスイジュのこと大好きだから。近くにいてくれるだけでいいんだから。スイジュはちゃんと役に立ってるから」
「でもあたしは、もっとミオさまのお役に立ちたいんです」
澪に両肩を掴まれたまま、翠寿は勢いよく頭を下げる。
「あたしをキヨマサさまにおつかえさせてくださいっ。お願いします!」
澪はそのままの姿勢で固まっていた。
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