謁見の間から広間へと場所を移した
20191007改稿。
謁見の間から広間へと場所を移した。
先ほどの部屋よりは狭いけど装飾の入った欄間とかがなくてどことなく落ち着いた雰囲気がある。
ああいう立派な部屋は変に緊張してしまうから精神的にあまりよろしくない。もっともお城で案内される部屋はどこも立派でのんびりできそうにないけど。
藤川国王を上座に、あとの面々は平行に向かい合う形で座っている。
上座に近いところに向かい合う形で家老の二人、井田家老の隣に座っているのは藤川家長男の白糸様、続いて三女ほの香姫が並ぶ。
僕と葵と澪はその向かい側、福岡家老の隣に並んで座っている。
白糸様は藤川家の長男と紹介されているので、彼が跡取りなのだろう。
容姿から判断するにまだ十代前半ぐらい、元服したてというところではないだろうか。まさに紅顔の美少年という感じだ。
長女と次女はすでに他家へ嫁いでいて、四女以下はまだ幼いので、三女のほの香姫がこの場に呼ばれていた。
女性の同席を許すあたりは戦国時代ごろの風習とは違うようだ。
ほの香姫は思わず見つめてしまうほどの美人だった。
大輪の花のように美しいけど、それが華美過ぎず品のある感じなのだ。万人受けする美人だと思う。文字通りアイドル顔負けだ。
道を行けば十人に九人が振り返る美しさだと言っていい。
各々の前には御膳が置かれている。
部屋の様子といい食事が並べられた感じといい、会社の慰安旅行を思い出す。
あのときは余興で後輩と二人羽織をして大受けだったな。懐かしい話だ。
「さあ、遠慮なく食べるがよい」
国王様は食事をすることになってから終始ご機嫌だった。
いろいろあって空腹だし、僕もすぐにいただきたい。
だがその前に。
「葵は大丈夫なの?」
「なにがでしょうか」
「いや、食事とかどうするのかと思ってさ」
機巧姫である葵の前にも同じように御膳があるのだ。
山林を歩いたときには水をとらなかったから、飲食はできないのかと思っていたんだけど。
「そのことでしたら問題ありません」
そうなんだ。
人形が食事をした場合、そのあとはどうなるのかちょっと気になる。排泄はされるのだろうか、とか。
「優れた機巧姫は人間とほとんど違いはないと言われるのです。質の良い機巧姫は外傷を負った場合はそこから赤い血が流れるといいます。人間のように睡眠もとるのです。伝説に残る神代式の機巧姫には、本人も含めて全員が人間だと思っていたなんてこともありますぞ。死んだときに初めて機巧姫であったとわかったのです。これはかつてこの国を訪れた――」
「イダ殿。そろそろ控えられよ」
まだまだ続きそうな機巧姫トークを福岡家老が諌める。
これからというところで止められた井田家老は憮然とした表情をしたものの、場を弁えたのかそれ以上は何も言わなかった。
なんか嫌だなあ。
この二人、政敵同士でいつもやり合っていて、互いの失点を探しあっているとかじゃないといいんだけど。
改めて御膳を見る。
中央に白飯の入ったお椀。右には具材の入っていない汁椀があり、左には薬味などの入った小皿がある。
これはお茶漬けのようなものなのだろうか。
織田信長も湯漬けが好きだったという。
あの時代は火をおこすにも手間がかかるから温かい料理を出すのは難しかった。だから簡単に沸くお湯を利用して温かい食事を食べていたらしい。
薬味を白飯の上にまぶし、汁をかけいれる。
ほかほかと湯気が立ち、いい匂いが鼻腔をくすぐる。
箸をもって食べようとお椀を手に取ったときだった。
「……おおっ」
白飯が汁でほぐれて、その下から肉や魚、色とりどりの野菜類、小さなサイコロ状に切ってあるのは豆腐だろうか。いろいろなものが汁に溶け出してきた。
これは手が込んでいる。
藤川国王のセリフはこの驚きのための演出だったのか。
「カカカ。どうだ、驚いたか?」
国王様は僕が驚いているのを見て喜んでいる。
「すまぬな、フブキ殿。父上はこうやって気に入った人を驚かすのが好きなのだ。食べ物で遊ぶようなことはよくないといつも御諫めするのだが、なかなか話を聞き入れてもらえなくてな」
「失礼なことを言うな、シライト。儂は飯で遊んでなどいないぞ。飯は旨くなければいかん。見た目も美しくあるべきだ。その上で驚きがあればさらに旨く感じよう。もっとも、気に入った者を驚かすのが好きなのは否定せんがな」
「……余計に性質が悪いですよ、父上」
「フン。どうだ、フブキよ。旨かろう?」
「はい、とても。この趣向も目を楽しませてくれています」
ちょっと濃いめだが悪くない。というか素直に旨い。
味付けから判断するに醤油や味噌もこの世界にはあるのだろう。食べ慣れた日本の食事とほぼ変わらなかった。
食事の合う合わないは活力に直結するだけに嬉しい展開だ。
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