慌てて口を挟んだのは福岡家老だった
20191007改稿。
慌てて口を挟んだのは福岡家老だった。
「一千石とは……苦労して新規に開拓した土地の半分ではありませんかっ。それをどこの馬の骨とも知れぬ者に与えるなど、家臣一同の不興を買いかねませんぞ」
「何を言うかっ」
諌めようとした福岡家老を国王が一喝する。
「この者は葵の君のような稀有な機巧姫を持っておる。それだけでも大身は間違いない。もし関谷が大国であれば一万石をもって迎えたとしてもおかしくはないのだぞ。それに我が国に攻め入った三旗の機巧武者を単旗で倒した戦果を忘れたわけではあるまい」
「そ、それは……」
福岡家老は口をつぐんで俯いてしまう。
と思ったら、僕の方を睨んでませんか?
嫌だなあ、僕は何も言ってないのに。
いきなり知行を一千石とやると言われても僕だって困る。
知行を持つということはその土地の領主になるということだ。知事は言い過ぎとしても、市長とか村長とほぼ同義だと思えばいい。
いきなりそんなことを言われも、その、なんだ……困る。
だいたい知行持ちになると澪のように人を雇って養わないといけない。
戦国時代だと戦争が起きた場合、一万石でおよそ二百人を動員したらしい。単純計算をすれば一千石なら二十人だ。それ以外にも女中とかも雇う必要がある。
無理だ。そんな責任はとても負えない。
「さすがにそれは辞退させてください」
「そうか。まあ、儂はいつでもお主の仕官を待っておるぞ」
いや、だからですね。仕官とか無理ですからっ。
ゲーム業界に就職するのとは状況が違いすぎる。
「しかしお主の暮らす場所となるとどうしたものか。城内の武家屋敷に用意したいと思うが……」
「それでしたら客将として操心館に入っていただいてはいかがでしょうか。フブキ殿にもよい経験になるのではないかと」
井田家老の言葉に、国王様はふむと考えている。
「なるほど。あそこならば部屋も賄いもあるな。生活するのは問題なかろう。知行が不要というのなら侍大将として三百石の蔵米で報いればよいか。それにあそこなら近い年頃の者たちも詰めておるし、うってつけやもしれん」
あ、井田家老の提案の意図がなんとなく読めた。
僕と葵を操心館に放り込んで、できたばかりの学校に箔をつけようとか、芽が出ていない機巧操士の候補生たちと一緒に生活させることで一人でも一人前に成長してくれれば儲けものだと企んでるな。
「そうだな。操心館でよいか。上士用の部屋もあったな」
「はい。部屋の数は十分に。個人的には国内にあるすべての機巧姫と人形雛をあそこに集めて管理すべきだと思っているのですが……」
「その気持ちはわからんでもない。だが人形雛まで取り上げては民が不満に思うぞ。それを先ほど指摘したのはお主ではないか。何事も欲をかきすぎず、ほどほどが肝要だぞ。カカカ」
もしかしたら藤川国王と井田家老は操心館を国防を担う人材育成以外に、人形の博物館にでもするつもりだろうか。マニアックな趣味をしているなあ。
おっと、今はそれどころじゃない。
衣食住が保証されるのであれば落としどころとして問題はないのでオッケーですと伝えておかなければ。
「こちらへ来る前に操心館を拝見させていただきました。大変、興味があります。ぜひ自分も置いてください。あと、この国に不慣れですから案内をしてくれる人をつけていただけると助かるのですが……」
共同生活をするのは構わないが、監視役をつけてくれってことだ。
僕の周囲で何か起きそうであれば監視役から王様へ連絡がいく。それは結果として僕の身を守ることになる。
「ふむ。そうだな……アワブチよ」
「はっ」
「お主をフブキにつける。よいな」
「ははっ」
「フクオカもそれでよいな」
「はっ。よき計らいかと存じます」
「フブキ。お主は操心館で好きに過ごしてくれ。何かあればヒロハタに言えばよい。よろしくやってくれるだろう」
「ありがとうございます」
ふぅ、やれやれ。なんとかここでの生活基盤を確保できた。
ほっとしたからだろうか、ぐぅ~と腹の虫が鳴いた。
「カカカ。そうだな。儂も腹が空いたわ。食事の用意はさせてある。生憎と戦のせいで手の込んだものは出せぬが食っていくがいい」
「ありがとうございます」
赤くなった顔を隠すために、深めにお辞儀をした。
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