しかし新人形の仕草
20191007更新。
「しかし新人形の仕草。あの作り物っぽさはなんとかできんものか。機巧姫を見知っておるせいか、見ているこっちが居心地悪いわ」
「機巧姫と比べなさいますな。そもそも観賞用のものなのですし。それに人形雛にもよいところはありますぞ。一番の利点は外見を好みにできるところでしょう。しかも機巧姫は高価な上に数が多くありませんが、人形雛ならば比較的安価で購入することも可能なのですし」
人形雛っていうのは初耳だ。
話の流れからすると機巧姫に近い存在のようだけど。
完全に周囲を置いてけぼりのガチ人形トークが繰り広げられているけど、僕も知識があればこの会話に加わりたいところだった。
だって、今ここでしているのってキャラクターデザインの話だよ。ゲームクリエイターとして興味があるに決まっているじゃないか!
「新人形の表情や仕草が硬いのは国王様のご指摘の通りでございます。ですが、そこはこれから人形師たちが腕を磨いていくことで解消できるのではないかと思っております。古式の機巧姫を手本にしつつ新たな風を送り込むことで人形作りが次の段階に進んでくれるのを願っておるのですが、はてさて、そこに至るのはどの人形師なのか。楽しみでなりません」
中央にいる僕を挟んで井田家老の正面に座っている家老の福岡久衛様は、この会話が始まってからずっと苦虫を噛み潰したような顔をしている。
こちらは井田家老と違い、痩せていて神経質そうな顔つきだ。普段から機巧姫の話で盛り上がる二人から疎外感を覚えているのかもしれない。
他の人たちはこれがいつものことだとわかっているのか表情を変えていなかった。スルー力って大事だよね。
「それで、この国で人形師として生計を立てている者の数はどうなのだ」
「はっ。元よりこの関谷は良質の木材がとれ、さらに勾玉を入手しやすい土地。そこで新人形である人形雛が次々に作りだされていると知れば、人形師として名を成したい者は居ても立ってもいられぬでしょう。続々と移り住んできているようです」
「思惑通りだな」
「はい。人形雛を関谷の新たな名産品にするという狙いは見事に当たりましたな」
「基本的に国外への持ち出しを禁止している機巧姫に代わり廉価な人形雛を作って売り、我が国は金を得る。その金で田畑を広げ、作物を育て、人を増やす。そうだな、フクオカ」
「仰せのとおりにございます」
ああ、なるほど。
藤川国王がしようとしていることは織田信長が茶器でしていたことだな。
以前までは戦で活躍した人に恩賞として知行を与えて応えていた。
しかし領土は限られているから与え続けることはできない。けれど褒美がなければ家臣の不満は溜まっていく。そこで信長は新しい恩賞システムを考えた。それが茶道と茶器だ。
まず茶道というものは素晴らしいのだと宣伝をする。そこで使われる茶器もまた価値があるものにしてしまう。つまりは権威づけだ。これが一般に広まれば、茶道で使われる茶器もありがたがるようになる。
なんと戦国時代では一国の領土をもらうより茶器がもらえなくてがっかりしたなんてエピソードが残っているぐらいだ。
この世界ではもともと機巧姫という価値ある存在がいる。
彼女たちは人形として優れているだけでなく、機巧武者という戦力でもある。
それが国外に持ち出されれば自国の戦力が失われ、他国の戦力が増強されてしまう。
そこで関谷では新しい人形を作るようになった。それがこれまでの会話に出てきた人形雛だろう。
それに価値があるのだと世間が認めてしまえば、生産国である関谷にはお金がどんどん入ってくるというわけだ。
実に理にかなっている政策だと思う。
っていうか、こういうのって異世界に転生してきた主人公が提案、実行して、周囲からすげーとか言われるのが定番なんじゃないですかね?
僕がアイディアを出す前に形になりかけているんですけど……。
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