かなり緊張していた
20191007改稿。
かなり緊張していた。
僕は今、色鮮やかな欄間を境とした畳敷きの謁見の間で関谷国の王様と対面している。
畳敷きで十畳ぐらいだろうか。
イメージとしては明治維新で大政奉還が行われたときのあの絵を思い浮かべてもらえればいいだろう。部屋の広さは違うけど雰囲気はつかめると思う。
上段の藤川白扇様が鎧櫃に腰かけていた。
鮮やかな青の鎧直垂の上に体の右側を守るための脇立をつけ、左手は手蓋で覆っている。この上に大鎧を身に着ければいつでも戦場へ行ける格好だ。
藤川様だけではなく、この場にいる全員が戦支度を済ませている。張り詰めたような雰囲気から、機巧武者の侵入に対してどうするべきかの話し合いをしていたようだ。
その藤川国王に怖いという印象はない。年齢は三十代後半ぐらい。失礼だけど意外に若くて美男子だ。
戦乱の世で国を治めているなんていうから第六天魔王的な人だったら嫌だなあと思っていたけど、これなら取引先のプロデューサーの方がずっと怖い。納期ギリギリになってから仕事をひっくり返す的な意味で。
ともあれ、今は王様に謁見の最中である。
これが洋風の世界であれば真っ赤なカーペットが敷かれているだの、壁面には見事な彫刻が飾られてだの、武装に身を固めた金属鎧の騎士たちが立ち並びだのというところだけど、ここはあくまで和風の世界だ。
畳敷きだからカーペットはないし、彫刻はあるものの欄間のあれは花鳥風月で絢爛さはあっても威圧感はない。
「報告はゲンサイから受けておる。一旗で三旗もの機巧武者を打倒したという話は俄かには信じがたかったが、会ってみて納得がいった」
ぱんと国王様は自分の肩を扇子で叩く。
「そのように美しい機巧姫がいればまさに百人力であろう。とても人の手で生み出されたものとは思えぬ美しさ。見惚れてしまうな。カッカッカ」
どこぞの天下の副将軍のような笑い方だった。殿様はこのように笑うべしみたいなルールがあるのかもしれない。
しかし顔に加えて声もイケメンなのか。どこの仮面のメイドだよ、どこの二代目眠りの名探偵だよ、どこの六階級制覇を目指すボクサーだよ、どこの声優が声当ててんだよ!
「どうだ、イダ。葵の君を見て率直な意見を申してみよ」
「ハッ。実に見事でございます。姿形だけでなく所作も含めたその美しさと艶やかさはかの名人、ホッショウジ・ライヨウ新式の名姫、朱鷺色の君と並べるのも憚られましょう。また匂い立つような色気。抑えられたからこそ感じ取ることのできるこの色香はまさに神技が昇華したもの。私も多くの人形を見ておりますが、これほどの美は見たことがありません。これは紛うことなき神代式。まさか生き残りに会えるとは……眼福です」
「うむうむ。そうだな。儂もこのように美しい機巧姫を見るのはこれが初めてだ。天色も連れ合いがいさえすれば……惜しいのぉ。ここに並べてみたかったわ」
朱鷺色の君の名前には覚えがある。というかゲームに実装したから知っている。
やや黄色の入った淡く優しい桃色の機巧姫で、主人公が大好きというのを隠さないまっすぐな性格と能力の高さもあって人気だった。
この世界でも朱鷺色の君は評価が高いようで何よりだ。一度、お目にかかりたいものだ。
天色の君は実装した覚えがない。どんな機巧姫なんだろう。こちらも気になる。
長々と葵についてコメントを語ったのが家老の井田小左衛門様だ。でっぷりとしていて貫禄がある。おまけに渋い声だ。ホムンクルスでありながら大総統をやった経験とかありそうだ。
「やはり古い機巧姫には風情がある。そうは思わんか。新人形の見目は派手で今風の美人だがどうにも好かん。流行り廃りがあるから仕方がないのはわかっているが、儂はもう少し古風な顔立ちが好みなのだ。あとはこう、胸と尻がしっかり張っているのが大切だな」
「ハハハ。国王様もお好きですなあ。私などは凹凸の少ない少年とも少女ともいえない微妙なところが好みなのですが」
「イダの好みは通すぎるであろう。というか、イダと同じような趣味を持っている者の話を儂は聞いたことがないぞ。もしや、そのような個人的な要望を優先して人形師に作らせている、などということはあるまいな?」
「ハッハッハ」
「その顔、していると書いてあるぞ」
「……わかりますか」
「なに。儂も胸と尻がでかい人形を望んだことがあるからな。カッカッカ」
駄目だこの人たち。
誰か早くなんとかしてください。
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