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お城の大手門をくぐる

20191007改稿。


20210102誤字修正。ご指摘ありがとうございます。

 お城の大手門をくぐる。

 翠寿は僕の脱いだ服の洗濯があるのでお留守番なのだとか。

 一緒に行きたがっていたから少しかわいそうだったけど、次に会ったときにはお土産話をいっぱいしてあげよう。


「おぉ~。これが本物のお城かあ」

「そう。関谷の中心。志野(しの)城だよ」


 志野城は丘を削って作られた平山城だ。日本では姫路城や小田原城、彦根城なんかが平山城として有名だろう。

 関谷国は山が多く平地が少ない。それもあって巨大な城下町を持つような平城を構築するには不向きだったのだと思われる。


 今は戦乱の時代。城を守るだけであれば強固な要塞となる山城が優れているが、山の上に主要な政治施設が固まってしまうと人の行き来がしにくく(まつりごと)に差し障りが出てしまう。

 そこである程度の防御力を持ち、また政治もしやすい平山城になったのではないかと推察できる。これなら商業活動が盛んという設定とも整合性が取れるしな。


 ただこの世界と日本のお城で大きく違うところは天守がない代わりに物見櫓があることだ。

 そもそも天守はお城の象徴という意味合いと遠方まで見渡すことができるという二つの要素がある。

 前者については為政者として尊敬を集めていれば問題はないし、後者は物見櫓があればいい。

 そもそも天守が一般的になったのは織田信長が建てた安土城以降だろうと言われている。


「国王様は普段からこのお城で生活してるんだ」

「そうだよ。武家屋敷があるから武士もお城の中で生活をしているんだけど、私みたいに操心館の候補生になった人たちはあっちで寝起きすることが多いかな」


 石垣を築き、堀をめぐらした城内の守りは堅い。また人を管理する上でもまとまって生活をしているとやりやすいというのもある。

 それゆえ戦国時代後期以降の平山城や平城の多くは城の周囲に家来の屋敷を配置していることが多かった。そうしてお城の防御力を高めているわけだ。

 城内に畑や井戸を設置して長期戦に備えるお城もあったそうだ。


 曲がりくねった道や虎口(こぐち)によって区切られた場所は敵が攻めてきたときに簡単に重要拠点に近寄らせないための工夫だ。

 敵の足を止めさせ、壁の向こうから弓矢を雨のように降らせて出血を強いる。これは実用重視の城だった。


「結構、慌ただしいみたいだね」


 途中、何度か甲冑を身に着けた人たちとすれ違った。

 遅ればせながら、敵に攻められた場所へ後詰めの兵を送り込んでいるのだろう。

 大規模な戦争を行おうとすれば事前の準備がいる。兵を揃えるだけではなく、武具や食料だって必要だ。

 そういうのはスパイを忍び込ませておけば事前に知れる。


 だがこの世界では機巧操士と機巧姫を敵国に潜り込ませることができれば大規模な陽動作戦どころかお城を攻め落とすことだってできてしまうだろう。

 そのあたりはどうなっているのか澪に聞いたら、何を言っているんだという顔をされた。


「機巧姫って簡単に関所を超えられないんだからね。そもそも手形がないと入れないし」

「そうだったね……」


 ここで手形を見せてみろと言われなくてよかった。

 機巧姫の出入りが厳しく管理されているのは、江戸時代の入鉄炮出女みたいなものなのかもしれない。

 江戸へ持ち込まれる鉄砲と、江戸から出ていく女を厳しく取り締まったというあれだ。


「機巧姫が人間のフリをしていたらどうするの?」

「普通は一目見ただけでわかるしね。髪の色とか仕草とか話し方とか」


 そう言って、澪は葵をちらりと見た。


「人間とほとんど同じって言われている神代式の機巧姫ならわからないけど」

「機巧姫と人間ってそんなに違うものなの?」

「葵の君なんて例外中の例外だからね。髪を染めてたら絶対にわからないだろうし」


 一番高いところに濠に囲まれた立派な武家館があった。

 操心館のように西洋風の趣はないが雰囲気のある建物だ。王が住むに相応しい風格がある。

 振り返って見下ろせば城下が目に入る。

 眼下に広がる街並みに思わずため息が出た。

 南へ向かって町が続いている。両サイドは色の濃い山がそびえ立っているから関谷の土地が狭いのがよくわかった。

 それでもここには多くの人たちが暮らしているのだ。


「すごいでしょ? ここまで上がってくるのはちょっと大変だけど、この景色を見るといつもすごいなあって思うの」

「たしかに、この坂を毎日上がるのは大変だ」

「ね。おかげで足腰が鍛えられちゃうわ」


 そう言って澪は笑った。

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