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それでも失われた命はある

20191006改稿。

 それでも失われた命はある。

 そのことを深く考えることはしないようにしていた。人の死を抱え続けることは不可能だと知っているからだ。


「相手が弱かったとおっしゃいましたが、単旗で複数の機巧武者を倒すとはかなりの使い手とお見受けいたします。ですが、フブキという名は寡聞にして存じ上げません」

「……実は見聞を広げるために故郷を出たばかりでして」

「フブキ様は城陽のご出身だそうです」

「城陽、ですか」


 血の気が引いていくのがわかる。

 城陽の領主の名前を聞かれたらどうしよう。流石にそこまで設定してなかった。

 そもそもゲームではストーリーに登場しない国名まで決めたりしない。

 プレイヤーにオープンにされない設定を作っても無駄になるからだ。


 キャラクターの育成に特化したソーシャルゲームはRPGのコアを抽出したようなものだと個人的に思っている。

 RPG――ロールプレイングゲームとは割り当てられた役を演じる遊びのことだ。進行役のゲームマスターとキャラクターを演じるプレイヤーが会話で進めていくテーブルトークRPGが元祖だと言われている。

 それがコンピューターゲームになり、ネットゲームになり、ソーシャルゲームになっていくに従い様々な要素が削られていった。


 他人と一緒に遊ぶネットゲームには職業や得意とするスキル、攻撃方法などで役割を演じる要素があった。

 戦士や騎士といった壁役が前線を支え、回復職がフォローし、魔法使いなどの火力職が敵を殲滅する。そういった役割を分担してゲームを進めていく。

 広大なマップを自由に歩き回り、冒険することで新たな体験を提供するのがネットゲームの醍醐味だ。

 そこには未知がある。隠された設定、物語、キャラクターの関係を探っていくのもゲームの一要素となっている。


 それに対してソーシャルゲームはソロプレイが基本だから役割を一人で演じなければならない。

 勢いできることは限られるし、行動に自由が与えられることもない。

 用意されたストーリーに従い敵と戦ってレベルを上げ、アイテムを収集してひたすらキャラクターの強化に注力する。

 だからプレイヤーが知りえないことは設定する必要がないのだ。


「なるほど。若い頃に旅に出るのはよいことです。私もフブキ様の年頃には……女子のお尻を毎日のように追い掛け回しておりましたな。はっはっは」

「それはなんとも……羨ましいことですね」


 あ、澪が冷たい目で僕たちのことを見ている。自重自重。


「実はしばらくの間はこの国に滞在して腕を磨きたいと思っているんです」

「ほう、関谷にですか。ですがこの国は小さく、それにご存じのようにいつ敵国が攻めてくるかわからない状況ですが」


 ここはせいぜい高く売りつけてやろう。


「だからこそ。自分の腕を磨く機会も多いかと」

「ふむ」


 じろりと上から下まで見られている。

 だぶついた服を着て見聞を広げるために旅に出たとは聞いて呆れると思われているのではないだろうか。

 この世界での一般的な旅装ではないだろうし。


「そのように緊張をされることはありません。フブキ様は我が国の恩人ですからな。是非、我が殿に会っていただきたく思います。この後、城へ行って此度のことを報告する予定になっているのですが、よろしければご一緒していただけませんかな」


 さてさて、いきなりこの国のトップと会える機会がやってくるとは、なんとテンプレな展開なのか。僕にとってはありがたい流れではあるんだけども。

 当然、こちらに断る理由はない。

 僕を害する意図があれば話は別だけど、国土を守った恩人に無謀なことはしないだろう。それに僕には葵が付いてくれていることだし。


「わかりました。喜んで」

「ありがとうございます。機巧武者として戦ってお疲れでしょうから、まずは風呂に入って戦塵を洗い落としていただきましょう」

「お風呂があるのですか?」


 なんとなく武芸を習う場所だと井戸の水で上半身裸になった男たちが笑いながら体を拭くってイメージがある。真っ先にこういうのが思い浮かぶのは時代劇の影響だろう。

 そういえば戦国時代の頃のお風呂ってサウナみたいな感じじゃなかったっけ。


「アワブチさん、貴方はフブキ様を風呂場へ案内してあげてください。着替えの準備もお願いします。予備の制服がある場所はご存じですね」

「はい、大丈夫です。それでは失礼いたします」


 館長の部屋を後にして廊下を進んでいく。

 広くて新しい建物だけど、誰ともすれ違わなかった。

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