淡渕も戻ったのか
20191005改稿。
「淡渕も戻ったのか」
「あ、カヤブキ様。ただいま戻りました」
「君も無事で何よりだ。おおよそのところは紅寿から聞いているよ。いろいろと大変だったみたいだね。でも気を落とすことはないよ」
「はい……」
玄関を入ったところで立ち話をしていたら、背の高い人物が声をかけてきた。
作務衣のような服を着ているが、年の頃はちょっとわからない。
何故ならこの人は仮面をつけているからだ。
もっとも鼻から上を隠しているだけなので口元なんかは丸見えだけど。
通常の三倍で移動するニュータイプか、3クリックで果てる聖上のようだ。
「ん? そちらは……」
「フブキ・キヨマサ様です。実は三桜を襲った敵の機巧武者を一人で倒した方です」
「……そうか。こうくるのか」
仮面をつけているが口元の動きでなんとなく表情はわかる。あれは驚いている。
澪曰く、三体もの機巧武者を一人で倒せることはまずないらしいからな。
「不吹と申します」
「私は茅葺瑞秀だ。操心館で機巧姫の調律師をやっている」
「調律師、ですか」
「機巧姫の調子を整えるのが仕事なんだ。人形師のように素体から機巧姫を作り上げることはできないが、戦いで壊れてしまった箇所を直したりしている」
「私の水縹もカヤブキ様に診ていただいてるの」
澪は機巧姫に認められていないって言っていたけど修理中だったのか。
「そちらにいらっしゃるのは機巧姫だね」
「はい。葵と申します。ほら、挨拶して」
「初めまして、茅葺様。不吹様の連れ合い、葵と申します」
茅葺さんはじっと葵を見つめたまま動かなくなってしまった。
美しさに見とれているという感じではなさそうだ。
「あの、葵に何か?」
「……あ、いや。なんというか……さすがだと思ってな。これまで多くの機巧姫を見てきたが、やはり葵の君はその中でも群を抜いている。古式……いや、神代式でも不思議ではないな。まさに人間そのものだと言っても過言ではない」
「カヤブキ様もそう思われますか?」
「淡渕には悪いが君の水縹の君よりも格上だ。藤川様の持つの天色の君よりも上だな。葵の君と同格の機巧姫はこの世界にもそうはいないだろう」
「やっぱり。私も初めてお会いしたときからすごいなあって思っていたんです。だから握手までしてもらっちゃいました」
「握手か。なるほど、淡渕らしい」
ずいぶんと二人は気心の知れる間柄のようだ。僕だけ置いてけぼり感が半端ない。
「ところで、広幡様への報告は済ませたのかな」
「いえ、これからです」
「そうか。それは引き留めて悪かった。不吹君。落ち着いたら一度、僕の工房に顔を出してくれないかな。葵の君のことをじっくり見させて欲しいんだ」
そう言い残すと、手をひらりと振って背を向けて行ってしまった。
「工房なんてあるんだ」
「うん。操心館の機巧姫の修理はカヤブキ様がしてるから。私の水縹は前からお預けしてあるんだけど、かなり具合が悪いみたいでね。機巧武者には当分なれそうにないみたい。はぁ」
「ため息ついているところ悪い。どこか行くところがあるんじゃなかった?」
「あ、そうだった。ついてきて」
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