長閑な道を進んでいく
20191005改稿。
長閑な道を進んでいく。
道沿いに生活道具や食べ物を広げている人たちがぽつぽつ見受けられた。
並んでいる品を覗き込んでいる人も、蓆を敷いて座っている人も似たような着物を着ている。
時代劇で見る農民の格好に近い。かなりくたびれた感じの着物が多いけど、着替えなど持っていなくて、基本は一着を着たきりだからだろうか。
「もう目的地に着いたの?」
「お城はもう少し先。あっちに塀と堀があるのが見える? あそこから先が城下町なの」
澪が指差す先には垣根が続いている。その手前に堀が掘ってあるのだろう。
防塁において塀と堀はセットであることがほとんどだ。ところどころに櫓も見える。
「耳聡い人たちは戦があったことを知っているのかもしれないね。今日は人が少ないみたい。商人ってそういうところに敏感よね」
「そんなに少ないの?」
「いつもならもっとたくさんの人がいるもの」
澪は少ないと言うけど城下町の外にも露店の市ができているのだから十分に賑やかだと思う。
戦国時代あたりだと固定の市場はまだないところがほとんどで、月に何日か定期的に開かれる感じだったらしい。
近隣の村々で順番に市が開催されるので、扱っている商品が多い商人は市が開かれる村を渡り歩いて売りさばいていたという。
今は人が少ないというけど関谷のいつもの姿も見てみたいものだ。
設定でしかなかったものが、こうして目の前にある。そのことに感動しないクリエイターはいないだろう。
「余所見してると迷子になるわよ」
「ならないよ。澪じゃあるまいし」
「キヨマサ君だって迷子だったじゃない」
そういえばそういう設定だった。
「ほら、こっち。こっちの道に入ってしばらくいった先が目的地だよ」
連れてこられた先は町の中心から少し離れていた。
町の中心部から距離があるためか、この辺りはほとんど道行く人がいない。
足が向いている先に、ぐるりと板塀が巡らされている建物がある。どうやらここが目的地らしい。
ところどころに櫓も設置されている。要塞というよりは陣屋だろうか。
澪に続いて門をくぐる。
門のところには大きな板に操心館と書いてあった。
門を入ったすぐ先には二階建ての真新しい木造建築物がある。驚いたのはどことなく洋風を思わせるからだ。
正面は八角の柱を八角形に配置した腰屋根。玄関ポーチは八角形の板石が敷き詰められ、外壁は下見板張りになっていた。
建物に沿ってずーと視線を送ると大きな講堂らしきものが見える。その隣にあるのは弓道場だろうか。
お寺や神社にしては施設がそぐわない。
僕の知識の中で該当するとしたら学校だろうか。
土足のまま澪は玄関に上がる。
「あ、履き物は脱がないでも大丈夫だよ。そのまま上がっていいからね」
「ここが目的地なの? まだ新しい建物みたいだけど」
「私が所属している操心館だよ。できたばかりだから建物は新しくて綺麗なんだけど、まだいろいろと揃ってなくて」
「そういえば門にも書いてあったね。何をするところなのか聞いてもいい?」
「機巧操士の育成だって。私もその一人で、すでに機巧操士となっている人や素質がありそうだと認められた人たちが国中から集められて、ここに住み込みで訓練をするの」
なるほど。つまるところ寮制度がある学校みたいなものだな。
練武をするための建物もあるみたいだし、人を集めて集中的にトレーニングをさせる腹積もりだろうか。各々が独自理論で勝手にやるよりも効率的かもしれない。
「と言っても、実際に機巧武者として戦えるのは師範のヒロハタ様を除くと操心館には二人しかいないんだけどね。あとの人は機巧姫がいなかったり、私みたいに機巧姫がいても認められてなかったりで」
ヒロハタ様っていうのは癒し手として澪に従軍を頼んだ人だったな。
師範ということは、ここの先生なのか。




