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澪が足を止めて振り返る

20191005改稿。

 澪が足を止めて振り返る。

 〈門〉と言っていたけど、それらしいものは見当たらない。

 ただ巨大でまっすぐに伸びた木が二本立っている。まるで古くからある神社の鳥居のようだった。


「ここでいいの?」

「ええ」


 片方の木に澪が手を触れて何事かつぶやくと、二本の木の間に光の幕が展開した。

 おお、すごい。

 木の間の向こうの景色も光の幕を透かしてかすかに見えているけど、どういう原理なんだろうか。

 紅寿が先頭で飛び込む。


「急いで。すぐに閉じちゃうから」


 手招きされたので、急いで紅寿の後に続く。

 葵が足を踏み入れたのを確認して、澪が最後に飛び込んだ。


 光の幕の先は真っ白な空間だった。

 上も下も左右も上下も白い。

 そのくせ足元はしっかりしている。


 先頭に立っている紅寿の背中を見失わないようについていく。

 踏みしめる地面が本当にあるのかわからなくて足元がおぼつかない。

 慎重に足を進めていると、手に触れるものがあった。

 見ると葵が手をつないでくれている。


 やがて白い空間にわずかな裂け目のようなものが見えてきた。

 それほど歩いていないと思うけど、〈門〉の反対側に到着したらしい。


 裂け目を抜けるとさっきとは違う森の中に出た。

 地面が見えて安心する。

 感謝の気持ちを込めて少しだけ力を入れてから手を離した。

 葵は僕の意図がわかったのか、うっすらと微笑む。


 振り返ると入ったところとよく似た二本の巨木が並んで立っている。

 その間から澪がぬるりと空間ににじみ出るように姿を見せた。


 今いる場所がどのあたりなのか、入った場所からどの程度の距離を移動したのかわからない。でもやっぱりこういうシステムがあると便利だな。

 広大なフィールドを歩き回るタイプのゲームなら移動のストレスを感じないですむ。


 どことどこが繋がっているのかとか、いつでも利用できるのかとか聞きたいことは山のようにある。

 だけど、何も見ないし何も聞かないし何も言わないと約束した以上、ここは我慢をするしかない。


「……」

「うん、ありがと。先に行って報告をしておいて」


 澪の指示を受けた紅寿はあっという間に走り去る。まるで風のようだ。さすがは人狼だな。


「じゃあ、私たちも行こうか。志野(しの)城の城下町に続く道はすぐそこだから」


 少し歩くと森を抜けて整備された道に出る。

 土を踏み固めただけの埃っぽい道沿いには延々と田んぼが続いていた。

 田植えはまだのようで土が掘り起こされている。そのせいかむせかえるような土の匂いがしていた。


「この匂いがすると春って感じだよね」


 今の澪はポニーテールをほどいて髪をおろしている。

 こうして見ると、澪も落ち着いて見えるから不思議なものだ。


「どうかした? さっきから私の顔を見てるけど」

「あー、どうして髪をおろしたのかなと思ってさ。いや、悪くはないよ。髪をあげていたときは凛々しいって感じがしてたし、今はなんだかお姉さんって雰囲気だし」

「それ、ほめてもらってると思えばいいのかな」

「どう考えてもほめてるでしょ」


 クスクスと澪はひとしきり笑ったあと、長い髪をかき上げる。

 先の尖った耳が見えていた。


「もうすぐ城下町だからね。人がいるからおろしたの」

「ふーん」


 なんだろう。うなじを見られると恥ずかしいとかそういうのだったりするんだろうか。

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