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敵は二カ所を同時に攻めてきたのか

20191004改稿。

「敵は二カ所を同時に攻めてきたのか」


 それは戦力がある強国にだけ許される戦い方だ。本来、戦力を分けるのは下策だからな。

 小国の関谷は一カ所を守るので手一杯だったのだろう。

 結果的に三桜村を攻めた機巧武者は僕が倒して事なきを得たわけだけど。


「そうみたい。噂だと少し前に関谷とは反対側にある六花国(ろっかのくに)と戦があったって聞いてたから、しばらくこっちに来るとは思ってなかったんだけどね」


 六花国も知ってるぞ。

 広大な土地を持っていて、全国でも有数の石高に設定してあった。

 積極的に戦争を仕掛けることはないけど国が大きい分、兵力があるはずだ。


「ところで敵の機巧武者について何か覚えていることってある? 使っていた武器とか鎧の色とか、なんでもいいんだけど」

「武器は槍だった。鎧の色は緑っぽかったかなあ。ああ、そういえば旗を背中に差している奴がいたぞ。たしか鳥みたいな絵だったような」

「鳥ってどんなの? 数とか形って覚えてる?」

「こんな感じかなあ」


 羽を広げた鳥が二羽、向かい合っている絵を地面に描く。

 ゲームディレクターたるもの、この程度の絵は描けて当然だ。簡単な絵が描けないとイメージを他の人に正しく伝えられないからな。


「これは……(むか)白鳩(しろはと)。白相国、オクトノ家の家紋だわ。どうして? 霧峰と白相の仲はよくなかったはずなのに……」


 白相国はゲームのスタート地点となる国だった。だから当然、霧峰との仲は悪い。

 この設定が生きているとして、霧峰と白相が足並みを揃えて関谷を攻める可能性はあるだろうか?

 ないとは言えないだろう。霧峰の矛先が関谷に向いている間は白相は無事と考えることもできるのだから。

 でも関谷が攻め滅ぼされたら次は白相になる可能性は高い。


「もしかしたら偽の家紋をつけていたかもしれないよ。霧峰が白相と同盟したと見せかけて関谷を動揺させる意図があるとか」


 そんな面倒なことをわざわざするのかというのは置いておいて。


「へぇ、そういう可能性もあるんだ。すごいね、キヨマサ君って。私なんかよりずっと頭がいいみたい」


 あくまで可能性の話でしかない。

 予断を持つのは避けた方がいい場合もあるけど、さて、今回のケースはどうだろう。


「澪も戦いに出てたんだよね。その割には軽装のようだけど」


 ゲームでは機巧武者は一騎当千であり、火力は歩兵と比べ物にならない。

 そもそも機巧武者はゲージがたまったときの超必殺技扱いのユニットだから歩兵と直接戦うことは基本なかった。


「私は正式な機巧操士じゃないからね。でも配下に優秀な忍びがいるから斥候を頼むってヒロハタ様に言われて参陣したの。あとは癒しの力も使えるからじゃないかな」


 正式ではないにしても機巧操士なら間違いなくエリートだろうし、澪も相応の地位にあるんだろう。だったら配下がいてもおかしくない。


「こう見えても三百石の知行(ちぎょう)持ちの武士だしね。すごいでしょ?」

「おお、知行があるんだ。そりゃ確かにすごい」


 知行っていうのはいわゆる領地のこと。そして領地があるということはそこの徴税権を持っていることになる。

 つまり澪は領主様ってわけだ。


 一石はお米にすると一千合で金一両に相当する。

 金一両は時代によってまちまちだけど現在の価値にすると四万円から十万円ぐらい。

 つまり澪の治める土地は最大で年間三千万円の収入がある計算だ。


 もちろんそれが全て澪のものになるわけじゃない。

 四公六民なら四〇%が税金で領主の取り分となる。

 それでも千二百万円。

 健康保険料とか住民税はないだろうからほぼ手取りと考えるとやっぱりすごいな。


 ゲームを作るにあたって鎌倉から江戸時代あたりを調べていたのが役に立っている気がする。雑学も捨てたものではない。


「じゃあ、今のところ敵を追い返せたと思っていいのかな?」

「そうだといいんだけど……」


 そんなことを話し合っていたら、すっと葵が前に出て僕をかばうように立つ。


「どうしたの?」


 問いかけには応えず、葵は正面をじっと見ている。

 視線の先には何もない。風に揺れる草むらがあるぐらいだ。

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