澪に先導してもらいながら道なき道を進んでいく
20191004改稿。
澪に先導してもらいながら道なき道を進んでいく。
動きにくそうな袴姿の葵は平気な顔をして森の中を歩いているけど、僕はギリギリだ。合わない靴で山道を進むのは思っていた以上に体力を消耗する。
「はあ、はあ、はあ……」
息が上がってきた。
流れ落ちる汗を袖で拭い、無心で歩き続ける。
「少し休憩しようか?」
振り返った澪が僕を気遣っているのは明らかだった。
「はあはあ……ごめん。ありがとう」
木にもたれかかって座りこまないようにする。
こういうときに腰を下ろしてしまうと次に立つのが辛くなるからだ。
「はい、お水。ゆっくり飲んでね」
澪が手渡してくれたのは竹の水筒だった。
栓を開けて口を湿らすようにゆっくり飲む。
「ふぅ……美味い」
こんなに水が美味いと感じたのはいつ以来だろう。
体を動かさなくなって久しいからなあ。
さらに二口ほど水を飲む。
飲み干すわけにはいかない。澪たちが飲む分だって必要だ。
「ありがとう」
「もういいの?」
「うん。助かったよ。葵は飲まないの?」
「不要です。ですが主様のお気遣いは感謝いたします」
葵は人形だから水分はとらないでいいのかな。今も汗一つかいてないし。
「あとどれぐらい歩くの?」
「もう少し……かな」
そのもう少しが一日とか二日じゃないといいんだけど。
僕の表情を見て思うところがあったのか澪が続ける。
「この先に転移できる場所があるからね。本当にもう少しだよ」
「転移?」
もしかして移動の手間を省くためのシステム? それが事実なら助かる。
ゲームではそういう設定はなかった。
ソーシャルゲームの場合は、町の移動、国家間の移動、果ては大陸の移動まで、すべてマップを選択するだけで済むし。
便利になっているのなら歓迎すべきだ。この設定を追加した世界に感謝したい。
「このことは内緒にしておいてね。私たちしか使えないものだから」
「私たちっていうのは……ああ、いいや。詳しくは聞かないでおくよ。他言無用ね」
「うん。ありがと」
無理に聞いて後から面倒事に巻き込まれるのもなんだし、ここは見て見ぬフリをしておくのが得策だ。
この先、必要に応じて教えてくれることになるかもしれないんだし。
それよりも今は他に聞いておくべきことがある。
「あのさ、この辺りのことを聞いてもいいかな」
「このあたりっていうと?」
「えーと、どういう名前の国なのかとか、誰が治めているのかとか……」
澪はきょとんとした顔をしている。
「実は遠くからこっちに来ていてさ、この辺のことをよく知らないんだ。だから教えてもらえると助かるんだけど」
「ああ、なるほど、そうだったんだ。たしかにこんなところに普通の人は来ないだろうし……もしかして迷子になったとか?」
「うん、まあ、そんな感じかな。街道からそれちゃったみたいでさ。慌ててたのもあって、どこにいるかわからなくなっちゃったんだよ」
方向音痴とかそういう問題ではないので勘違いをしてもらえると助かる。
照れているフリをして頭をかいていると、くしゅっと澪が微笑んだ。
「実は私もよく迷子になるの。街中を歩いていて目印にしておいた荷車があそこにあるからって安心してたんだけど、帰り道になると見当たらなくて迷ったり、全然違う場所に行ったりしちゃうんだよね」
方向音痴の人には定番のあるあるだ。
自動車みたいな動くものを目印にするから、それが移動してしまうと場所がわからなくなって迷子になるっていう。
山とか目立つビルといった動かないものを目印にすればいいんだけど、そういう発想にはならないらしい。
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