ここにも機巧武者がいるって聞いていたんだけど
20191004改稿。
「ここにも機巧武者がいるって聞いていたんだけど……」
「三体いたね」
「はい。主様であればあの程度は障害にもならないでしょう」
葵は僕以上に自慢げだった。
いや、いいんだけどさ。その得意げな表情もかわいいから。
「信じられない。葵の君がいくらすごくてもそんなのって……」
「――主様の戦果に不満があるのですか?」
冷たい声だった。
言われたのが僕じゃないのに、背筋がヒヤリとするほどだ。
「い、いえ、そんなことはっ。ただその……すみません!」
澪は両手をついて頭を下げている。
土下座だ。なかなか堂に入った土下座だった。
「頭をあげてよ。別に怒ってるわけじゃないんだから。な、そうだろ、葵」
「……」
しかし葵は冷たい目をしたまま澪を見下ろしている。
「葵も機嫌を直してよ。そんなに腹を立てることもないだろ」
「そうは参りません。主様は確かに首級をあげました。初陣にも関わらず三つもです。それを賞賛こそすれ疑うなど。許されることではありません」
「本当に申し訳ありませんでしたっ」
地面に頭がめり込むんじゃないかという勢いだ。
明らかに土下座慣れしている。どんな慣れなんだ、それは。
「ああ、もう。澪も頭を上げてくれって。こっちが居心地悪い。葵もそこまでにしてよ。僕を動けるようにしてくれたのは澪なんだしさ」
「……確かにそうですね。申し訳ありません」
葵は頭を下げ続けている澪の手を取った。
おそるおそるという感じで澪が顔を上げる。
「主様のことで少々言葉を荒げてしまいました。申し訳ありません。それに主様を癒していただいたお礼もまだしておりませんでした。改めてお礼申し上げます」
「い、いえ、私の方こそすみませんでしたっ」
また土下座しようとするのを押しとどめる。このままだと繰り返しになりかねない。
僕のために葵は腹を立ててくれたみたいだけど、いきなりで驚いた。
あと澪も土下座はやめて欲しい。僕が一方的に悪い奴みたいだから。
「体調、本当に大丈夫? 機巧武者になるとかなり体力を使うって聞くし、人によっては一日は動けないなんて話もあるんだけど。もう一度、〈手当〉を使っておく?」
「大丈夫だと思う。気を使ってくれてありがとう」
「私にはこれぐらいしかできないから……」
そう言ってまた寂しそうに笑う。
「……澪?」
「ううん、なんでもない。じゃあ、移動しようか。先導するからついてきてね」
「わかった」
立ち上がって足を踏み出そうとしたら違和感があった。
なんだろうと思って足元を見る。
「……あれ?」
黒の革靴を履いている。
いつもはスニーカーだから珍しいと言えば珍しいけどそれはいい。
「ぶかぶかだ」
明らかに靴のサイズがあってなかった。それにズボンの丈もだ。足首のあたりに布がとぐろを巻くようにたまっている。
腕を伸ばすと指先すら袖から出ていなかった。肩も落ちていて体にあってない。
「移動の前に、その格好をなんとかしないとね」
澪が呆れたような顔で僕を見ている。
「そうだね」
肩をすくめてみせたら上着がずり落ちた。
華奢な肩のラインがあらわになる。まるで中学生みたいな体つきだ。
参ったな。
どうやら単純に異世界へ転移したわけじゃないみたいだ。
肉体の変化にはどういう意味があるんだろうか。
ベルトをきつく締めてズボンが落ちないようにする。裾も上げ、袖もまくった。
これで歩く分には問題ない。服は皺になるけど仕方がないだろう。
黒いネクタイは外して胸ポケットに入れる。
これで僕の準備は完了だ。
「あ、待って。襟のところ見てあげる。んっ、これでよし。この服、すごくいい生地使ってるんだね。もしかしてキヨマサ君っていいところの子なの?」
「そうでもないよ」
一着数万円の吊るしの礼服だし。
「でもこんなに艶のある黒に染めた生地を使ってるなんてすごいよ。触り心地もいいし。まさかこれが正絹なのかな」
いや、そんないいものじゃないです。化繊だと思うよ。
「へー」とか「ほー」とか言いながら、澪が僕の周囲をクルクル回る。
覗き込むようにすると白い首筋があらわになった。どことなく甘い香りがする。
ん? 澪って耳の先が尖ってるんだな。
もしかしたらエルフの血を受け継いでいるみたいな設定があるんだろうか。
そもそもゲームは和風がベースだったからエルフはいなかった。
でもこの世界がゲーム設定そのままじゃないのならそういうこともあり得る。
僕が知らない技能も存在してるわけだし。折を見て聞いてみよう。
「見れば見るほど変わった形の服だね。肩の位置とか独特だし」
そういえば最初からやけに親しげな口調で話しかけてくるなあと思っていたけど、澪には僕が年下に見えているんだろうな。
放っておけない弟みたいに思われているんだろうか。それはそれでなんか調子狂うなあ。
「移動するのに問題なさそう?」
「たぶんね」
「じゃあ、そろそろ行こうか」
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