24 人狼は主に忠実っていうけど
「人狼は主に忠実っていうけど、そのあたりはどうなの。噛みついたりしない?」
「どんな時も真面目で一生懸命ですよ。僕や澪のことをいつも気にかけてくれますし。鼻がいいので追跡とかは特に頼りになりますね」
「おお! そういうの、そういうのもっと聞きたいね!」
奥山田さんは懐から取り出した帳面に何やら書き込んでいる。
「動きも素早いです。かなり身軽で塀や屋根にもひとっ飛びですし」
「やっぱり! 人狼には狼と似た能力があるって話は事実なんだなあ。なるほどね~」
「ちなみに不用意に構って紅寿に股間を蹴り上げられたことがあります。あまりに動きが早くて、気が付いたら地面に倒れてました」
「は? 股間を蹴り上げられた? それ、大丈夫だったの?」
「大丈夫じゃなかったです。木霊の澪がいたので癒して貰えましたけど」
僕の話を聞いた奥山田さんは恐る恐るといった風に紅寿を見やる。
「すぅ……すぅ……」
「……あれ? 紅寿ちゃん寝ちゃってない?」
手にぐい呑みを持った紅寿は、こっくりこっくりと船を漕いでいた。
「んみゅぅ。あらひもねむいれしゅ……」
うつ伏せで丸まった翠寿も寝てしまう。
「あ~! これ、俺の酒だよ。あちゃー、間違って飲んじゃったのか」
「お姉さん、お水をたっぷり持ってきてください! それから大き目の桶もお願いします!」
飲み会で潰れた同僚を介抱したことを懐かしく思い出す。
「しまったなあ。これはうかつだった。申し訳ない」
「このところ二人とも忙しくて疲れていたのもあると思います。だからそんなに気にしないでください」
「そう? でも俺にできることがあればなんでも言ってよ」
「じゃあ、食器を片付けて横になれる場所を確保して貰えますか」
「おう、任せとけ!」
「っていうか、この三人をどうやって宿まで連れていけばいいんだろう……」
心の中でため息をつきつつ、潰れてしまった三人の介抱をすることにした。
幸い宿はすぐ近くだったので三往復して三人を運び終える。
「なにも主様が一人でやらずとも吾がお手伝いいたしますのに」
「気持ちだけ受け取っておくよ。今回は僕の管理不行き届きもあるからさ」
奥山田さんもたいそう恐縮していたけど、今日のお礼を言って房島屋で別れた。
「何か困ったことがあれば遠慮なく言ってくれよな。友達なんだからさ」
そう言った彼はもうしばらく飲むそうだ。かなりの大酒家だ。
「水をお持ちいたしました」
八鶴さんが大きな徳利に水を入れて部屋まで持ってきてくれる。
「すみません、もう遅い時間なのに」
「いいえ。それよりも具合はいかがでしょうか」
「一晩寝れば大丈夫だと思います。翠寿たちが口にしたのはかなり薄めた火酒でしたし。澪は……まあ、いつものことですから」
「うみゅぅ……もうのめにゃい……」
ちなみに火酒一口しか飲んでいない。なんと安上がりな酔っ払いなのだろうか。
「八鶴さんはもう休んでください。後は自分たちでしますから。それから明日の朝の件、よろしくお願いします」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
頭を下げると静かに障子が閉じられる。
「あとは吾に任せ、主様もお休みください」
「わかった。お願いするよ」
衝立の向こうへ向かい、既に敷いてある布団に潜り込む。
目を閉じるとすぐに眠気がやってくる。
「これ、おいひいね、きよまはふん……」
澪の寝言に口元が緩んだ。




