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23 それから水蛟様たちの暮らす水江島との交易だ

「それから水蛟様たちの暮らす水江島との交易だ。これは他の国も含めて関谷の船坂が唯一許されていることでね。だからここは藤川様の直轄領でもあるんだけどさ。水江島から定期的に珍しいものが運ばれてくるんだけど火酒もその一つでね。水蛟様と同じものを飲めるなんて他所ではできないことなんだよ」


「火酒って船坂の名物じゃなかったんですか」


「実は火酒を作っているのは水江島で暮らす水蛟様なの。でも水蛟様は関谷で飲まれている酒もお気に入りのようでね。交易船がやってくると毎回結構な量を積み込んでいくそうだよ」


「今まで八岐に会ったことがないって言ってましたけど、交易船から降りてきた水蛟を見かけたこともなかったんですか?」


「水蛟様があの船から降りられることはないんじゃないかなあ。そもそもお役人様しか船に近づけないんだよ。こっそり乗り込んでやろうと思ったこともあるんだけど二の足を踏んでたんだよねえ。知ってる? 水蛟様のあの話」


「もしかして雷を落とすってやつですか」


「それ、それだよ! 本当なのかねえ」


「澪に聞いた話だと本当のことらしいですよ」


「マジで!? よかったあ。君たちと知り合えてなかったら渦潮へ飛び込むつもりで実行してたかもしれないよ。そうか、やっぱり八岐にまつわる言い伝えって正しいものなんだなあ」


「そういえばこの町の近くに水蛟が住んでいるはずなんですけどご存じないですか」


「水蛟様が? この近くに?」


「とても腕のいい須玉匠なんですけど。僕たちはその人に会いに来たんです」


「須玉匠っていうのはなんだい?」


「機巧姫の勾玉を加工する職人さんですね」


「は~、そうなんだ。人形には興味がなくてねえ。しかし水蛟様が近くで暮らしていたなんて知らなかったなあ。それが本当なら会いに行きたいなあ。あ、待てよ。そういえば金銀財宝がためこまれた蔵があるって噂を耳にしたことがあるぞ。それがその水蛟様のことだったのかもしれないな」


「やっぱり水蛟は光物が好きなんですかね」


「という噂だね。だから一獲千金を夢見て水江島に忍び込もうとする輩もいるみたいだけど、誰一人として成功した者はいないんだよ。あの島の周りの海流は複雑でね。渦を巻いているから下手に近寄ると舟が沈んじゃうんだ。あとはほら、雷を降らせるのが事実っていうのならなおさら無理ってものだよね。君たちは大丈夫なの? その職人をしてる水蛟様に雷落とされたりしない?」


「手紙で来訪の理由を伝えてありますから大丈夫じゃないかと。あと手土産も持ってきましたし。城下町で仕入れたお酒なんですけどね」


「そっか、そうだよな~。そういう礼儀っていうか心遣いは大事だよな。ねえねえ、水蛟様は雷だけじゃなくて水の流れや天気そのものを操る力があるって話があるけど本当のこと?」


 いきなり横になっていた澪が上体を起こす。


「そうらよー。ちゅよいみじゅちはおてんきをあやつれりゅよ……ひっく」


 それだけ言うと、またパタリと横になった。


「……だ、そうです」


「さすがは水蛟様だ! いや~、今日は貴重な話がたくさん聞けてありがたいなあ。ほらほら、もっと飲んで。お腹空いてない? 何か注文しようか?」


「いえ、もうお腹一杯なので」


「そう? 他のおすすめもあるんだけどなあ。翠寿ちゃんと紅寿ちゃんももっと食べていいよ」


「むぐむぐむぐ……」


 里芋の煮っころがしを三つ四つ口に放り込んだ翠寿の頬はハムスターのように膨らんでいる。


「翠寿。口一杯に頬張るのはやめなさい」


「むぐぐ……ごっくん。はーい。ごめんなさい」


「翠寿ちゃんは素直でかわいいねえ。お姉ちゃんはちょっと怖いけど」


 ジロリと上目遣いで紅寿が見る。

 心なしか頬が赤くて頭がフラフラしているようだけども。

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