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16 助かった

「助かった。宿の場所を聞いてみよう」


 生い茂った草を踏みしめながら扉を叩いてみる。


「ごめんください。誰かいらっしゃいませんか」


 返事はない。

 紅寿が僕を見つめて何か言いたげにしていたので、頷いて行動を促す。


「……」


 頭巾を脱いだ紅寿は鼻をつまんだままぴたりと耳を扉に押し付けた。

 しばらくそうしていたけど首を横に振る。


「こんなにボロボロだし、誰も住んでないんじゃ――つめたっ」


 ぽつりぽつりと雨が落ち始める。


「空き家みたいだし、ここ借りちゃう?」


「勝手に入るのは駄目でしょ。このまま町へ向かおう。紅寿、それ預かろうか」


 片方で鼻をつまみ、もう片方で柄樽を持っていては歩きにくいだろう。


 間髪入れずに紅寿は頭を横に振った。

 それから意を決したように両手で柄樽を抱え込んで鼻に皺を寄せる。ここは心意気を買おう。


「じゃあ、任せたよ。行こうか」


 先頭に立って歩き始める。

 暗くて足元がよくわからないので歩みは速くない。


 吹いてくる風に生臭いというか鉄のようなにおいを感じて顔を顰める。


「こういう時、夜目が利くと便利なのにね」


「あらひひひまふ!」


「そうなの?」


「夜目が利く種族は多いからね。私は全然ダメだけど」


 つまり技能とは別の種族特性ということか。人狼は本当に優秀だなあ。


「何か気になるものが見えたら教えてね」


「はひ!」


 鼻をつまんでいては人狼の鼻は使えない。でも暗闇を見通すその目には期待させてもらおう。


「清正君。雨が強くなってきてる」


 大粒の雨が顔に当たり、視界はよくない。


 一瞬、周囲が明るくなった。

 それからゴロゴロゴロという腹に響く音が轟く。


「雷だ。いそ――」


 誰かが足にしがみついていて動けない。


「……翠寿?」


 体を小さく丸めた翠寿が僕の右足を抱え込んで震えている。


「大丈夫だいじょうぶ。平気だからね」


 同じような状態の紅寿は澪にしがみついていた。


「急に大きな音がしたからびっくりしちゃったよね」


 頭巾を被った頭を澪が撫でてあげると、紅寿はゆっくりと体を離して頭を下げた。


 僕も澪に倣って翠寿の頭を撫でてあげる。


「雷が怖いようなら僕が背負ってあげようか? おへそを隠しておけば雷は怖くないよ」


 ブルブル震えていた翠寿が顔を上げる。

 顔が濡れているのは雨のせいか涙のためかわからない。


「だ、だいじょうぶ、です」


 気丈にもそう口にする。

 再び雷鳴。


「ひゃ!?」


 離しかけていた手でしがみつかれる。


「仕方ない。さっきの小屋まで――」


「お待ちください」


 言いながら葵が僕の前に出た。

 僅かに腰を落とし、前方を警戒している。


 それを見て紅寿と翠寿が葵の左右に立つ。

 小刻みに手足が震えているにも関わらず僕と澪を守るように構える。


「どうしたの?」

「何者かの気配があります」


 稲光によって周りの影が不気味に踊っている。

 強い風が襟元を乱暴に撫でていく。

 雨が顔を伝い流れて前がよく見えない。


「見て、清正君! 誰か倒れてる!」


 手で雨を遮り視界を確保すると、前方の道端に蹲る人が見えた。


 けれどこう暗くては男性か女性か、若者か年寄りかも判然としない。


「ケガをしてるのかもっ」


 声を上げた澪が前に出ようとする。


「待って! 僕が行くよ」


 改めて先頭に立つと袖が引かれる。

 心配そうな顔で見上げているのは翠寿だった。


「清正さま、あぶないかもしれんだらぁ」


「あー、そうだね。翠寿の言う通りだ。みんなで行こう。周囲の警戒も忘れずにね」


 五人でまとまってジリジリと進んでいく。

 その間にも幾度か周囲が明滅した。

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