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ガサリと近くの草むらで音がした

20191004改稿。

 ガサリと近くの草むらで音がした。

 おもむろにそちらへ視線を向ける。

 ひょっこりと顔を出したのは女の子だった。


「えっと……あの?」


 声も若い。まだ高校生ぐらいだろうか。

 しかし、少なくとも女子高生ではないのはわかる。それらしい制服を着ていないし、オシャレな私服でもない。

 彼女が着ているのはなんといえばいいのか……紺色の忍装束だろうか。


 首元までぴったりと覆った水着のような内着に、和服のような前合わせの袖のない上着を重ねている。

 相撲の呼び出しがつけるような裁着袴(たっつけばかま)の丈は短くて、一見するとショートパンツっぽい。しかも左右が広く開いているから太ももがチラチラ見えていた。

 腰には棒のような――おそらくは忍者刀ではなく短刀を差している。

 指が露出した手甲は上腕あたりまでの肌を隠し、足はニーハイソックスっぽくみえる。足元は脚絆をつけていた。

 だから忍びといえば忍びに見えなくはない。


 ただし、ゲームキャラのデザインとしてみれば彼女の装束はやや地味だ。

 見た目重視なら肌が露出している部分は網タイツ的なものがあるといい。エロいからな。


「だ、大丈夫!?」


 少女が慌てたような声を上げたかと思うとこっちへ向かって走ってくる。


「う、ええぇぇ……!?」


 びっくりして後ずさろうと思ったけど体が思うように動かない。そもそも僕の背後には葵がいて移動することができないわけで。

 視線を上げると葵はどうしたのか?と言いたげな顔をして僕を見下ろしている。


「もしかしてさっき葵が言ってたのって……」

「いいえ、彼女ではありません」


 そうなのか。だとすると、この近くにはまだ他に誰かいるってことだな。


「どこか怪我したの? 私に見せてみてっ」


 ズザーとスライディングでもするかのように滑り込んできた女の子は顔やお腹に手を当てて僕の反応を確認している。


「べ、別に怪我はしてないと思うけど……」

「じゃあ、痛むところはある? ここ? ここは?」


 手当をしようという意志はこの上なく伝わってくるんだけど、外傷は特にないし痛みもないからそんな風にぺたぺた触らないで欲しい。

 なんていうか、女の子に体を触られるのは慣れてないのでっ。


「本当に大丈夫。ちょっと疲れた感じがあって横になっていただけだから。しばらくすれば起き上れると思うし」

「そうなんだ……よかったぁ」


 女の子は心底ほっとしたように大きく息を吐いた。

 悪い子ではないのだろう。

 たったこれだけで判断を下すのは間違っているかもしれないが、少なくとも僕のことを心配してくれたのは事実だ。


 改めて女の子をよく見る。

 長く艶々した綺麗な髪はポニーテールにしている。彼女が首を振るたびにぷらんぷらんと左右に揺れた。

 女性のうなじっていうのは男の視線を引きつけてやまない。でも彼女については色気を感じるよりも愛らしい印象を受ける。

 しっかりした眉に意志の強さが宿っているようだ。目はパッチリしていて瞳は大きい。

 特別美人とは言わないけど、クラスにいたら男女を問わず人気者になっているような子だ。


「あ、そうだ。疲れているのなら〈手当(てあて)〉を使ってあげる」

「手当を使う?」

「うん。ある程度なら疲労の回復にも効果があるはずだから」


 横になったままの僕の右肩に両手を当てて女の子は目をつむる。

 何をするつもりなのかと彼女の手を見ると、手が触れているところからぼんやりと光がこぼれ出ていた。


「これは……手が光ってる?」

「大地の恵みよ。大いなる母なる力よ。その力を恵み給え。この者の身体を癒し給え……」


 彼女の手からあふれ出たかのような光が僕にまで伝わってくる。

 触れられているところがあたたかい。まるで温石マッサージをされているかのようだ。

 じんわりとした感覚が肩から全身に広がっていく。

 ああ、これはまるで温泉につかってリラックスしているみたいだ。気持ちがいい。

 すぅと光が消えた。


「どうかな?」

「……よっと」


 促されて上体を起こしてみる。問題はなさそうだ。

 かすかに体の奥に疲れが残っているようだけど、それほど気にはならない。


「ありがとう。助かったよ」

「ううん。なんにもなくてよかった」


 笑うと女の子の口元にはえくぼができた。

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