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14 みつけてきたです!

「みつけてきたです!」


「おお、早かったね」


 捜しに行って十分もしないで戻ってきた。


「こっちじゃん、こっち!」


 翠寿が案内してくれた桟橋には一艘の小舟が繋ぎ止められていた。

 日に焼けて真っ黒な顔をした船頭さんが白い歯を見せて笑う。


「運ぶのは五人だね。では五万圓だ。まずは半額。向こうに着いたら残りを払っとくれ」


「ちょっと清正君。さすがに一人一万圓は高くない?」


「僕が出すから気にしないで。はい、こちらです」


「へい、たしかに」


「なるべく早く船坂に着いてくれると助かるのですが」


「この舟の足は速いから任しとくれ。ほれ、さっさと乗らんかね」


「うごいた!」


「ははは。ほれ、見てみな。この舟は水切りがいいだろう? すいすいと前に進んでいるのがわかるかい。ま、狭くて小さいから荷物はあまり載らないがね」


 長い竹竿を持つ船頭さんは舳先に立って巧みに舟をコントロールしている。

 混み合う水路を抜けて明科川に入ると竹竿をしまい、今度は舟の後部で櫓を漕ぎ始めた。


「このおふね、だらはやいらぁ!」


 器用に船縁を歩いて舳先に陣取った翠寿は大はしゃぎだった。


「普段は何を運んでいるのですか」


「船坂で獲れた魚だねえ。帰りはあんたたちのような人だったり食料だったりいろいろさ」


「ねぇ、まっとはやくなる?」


 舳先に立って振り返った翠寿が目を輝かせて尋ねる。


「もちろんだとも。でもお嬢ちゃん、立ったら危ないよお。川に落ちたらどうすんだい」


「そんなんへいちゃらじゃん!」


 言いながらその場でクルリと回転してみせる。


「いい足腰だ。さすがだねえ。それじゃあ、お嬢ちゃんのご希望に応えようかね」


 笑いながらギシギシと音を立てて櫓を漕ぐ。


「お、おお思ったより揺れるな……」


 スーッと流れてるか流れてないかのような水面だけど、思っていた以上に流れは急なようだ。

 しかも櫓を漕ぐ度に舟の頭が左右に揺れるからしっかり船縁を掴んでいないと川に落ちそうになる。


「わーい! たーのしー!」


 翠寿は舳先で大喜びだ。揺れる船上にあってバランスを崩すこともない。

 それでも葵が気を利かせて、はしゃぐ翠寿の腰を支えてくれている。


「ははは。お嬢ちゃん、その場所が気に入ったかい」


「うん!」


「小さいお嬢ちゃんは元気がいいねえ」


 櫓を漕ぐ船頭さんの前に座っている紅寿は真剣な表情で懐に柄樽を抱え込んでいる。


「そんな緊張しないでも大丈夫だよ。疲れちゃうでしょ」


 しばし僕の顔を見つめてから、紅寿はゆっくりと左右に首を振った。

 気にするなということだろうか。


「じゃあ、お酒を落とさないようによろしくね」


 紅寿はこくりと頷いた。


「船坂に着くのはいつぐらいになりそうですか」


「この流れに乗っていければ日暮れ前には着けるかねえ。夜遅くに戻るのは俺も勘弁だからよお」


「暗くなったら危ないですもんね」


「それはあんまり問題ないけど、最近は何かと物騒でなあ。噂では出るって話なのよ」


「出るって何がですか」


「これよ、これ」


 言いながらおじさんは舌をベロリと出す。


「幽霊ですか」


「魔物っていう奴もいるけどねえ。そんな話を聞いたらお天道様が出ている間に家に帰りたいって思うのは当然だろお。それに家に帰ればかかあがうめえ飯を用意して待ってくれてるしな」


 ガハハと大口を開けて笑う。


「ところで、あの人形はお客さんのかい」


「はい」


「とんでもないべっぴんさんだ。こんなきれいな人形を見るのは初めてさあ。船坂にも人形はいたけど、こんな美人は見たことがないねえ。でも気を付けたほうがいいよお。最近は人形がさらわれたり壊されたりしてるって話だ。こんな美人なら目をつけられたって不思議はないからねえ」


 恐らくは日影の仲間による工作だろう。

 しかし人形が壊されるというのは穏やかじゃない。



 船旅は順調だった。


「うぅ、ううう……」


 ただ一人を除いて。


「大丈夫?」


「う、うん……なんとか……」


 澪は真っ青な顔をしていた。どうやら船酔いのようだ。


「お嬢ちゃん、気持ち悪いのなら吐いちゃった方が楽になるよお。遠慮しなさんな」

「もう……だめ、かも……」


 そう呟いた澪は舟縁から上半身を乗り出した。

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