13 南東は明科川から水が引き込まれている
城下町の南東は明科川から水が引き込まれており、船着き場にはたくさんの舟が繋がれていた。
上流からはこの国の名産品である木材や鉱物などが、下流にある船坂町から海産物と交易で得た貴重品が集まってくる。
そしてここから食料品や木工品などが各地へ運ばれていく。恐らく城下町でも最も活気溢れる場所の一つだろう。
「うわー、すごい数の舟だ」
大きな舟は長さが二十メートル近くあるだろうか。それなりに幅もあって多くの荷物が詰め込めそうだ。
小さい方はその半分ぐらいだけど幅が狭い。ひっくり返ってしまわないか見ているだけで不安になる。
船着き場に泊っているほとんどが小型の舟だった。
「それに人も多いや」
荷揚げされる荷物を運ぶ人、荷車に荷を積み上げる人。みんな筋骨隆々だ。
誰もが大声でやり取りをしているから大きな声で話さないと意思の疎通も難しい。
「みんな、迷子にならないようにね」
「一番気を付けるべきは清正君だと思うけどなぁ」
髪を下ろした澪の言葉に思わずショックを受ける。
まったく失礼な話だ。この世界へ来たばかりの頃ならいざ知らず、今ではすっかり……お、あれはなんの荷物だろう。気になるな。
荷を確認しようと踏み出すと袖が引かれる。
「清正さま、かってにどっかいったらあかんだらぁ」
「……ごめんなさい」
澪が呆れたような目で僕を見ていた。
「そういえば明科川って橋が架かってないんだね。三桜村に行く時も舟で向こうに渡ったし」
一人当たりの渡し賃は千圓だったと記憶している。
「藤川様が工事をしてくださるまでは大雨が降るたびに橋が流されていたそうだからね。だから今でも川向こうへ行くには舟を使うしかないんだよ」
「橋があった方が何かと便利だと思うんだけどなあ」
「防衛上の理由もあるんじゃないかな」
「なるほどねえ」
「それに洪水が完全になくなったわけじゃないしね。工事をする前はもっとぐねぐね川が蛇行してて、流れもすごく速かったんだって。だからちょっと雨が降ると毎回氾濫してひどかったらしいよ。それをお城の北側まで引き込んで流れを緩やかにして、川を真っ直ぐにしたんだって」
現在の明科川は志野城の北から東にかけてぐるりと回り込むように流れている。
その構造ゆえに北側から城への侵入はほぼ不可能になっていた。
「そういえば大きな岩がお城の北にあったな。あれで川の流れを緩やかにしたのかな」
「あの大岩は鬼たちが運んだんだよ」
「へえ。いくら鬼が力自慢でも、あんな巨大な岩をよく運べたなあ」
「そこはまぁ、鬼だしね」
それで納得できてしまうのが鬼の恐ろしいところだ。
「そんなことより船坂へ向かう舟を捜そうよ。急がないと日が暮れちゃうよ。できたら今日中に須玉匠のところに行きたいよね」
「紀美野さんは下りの舟なら見つかりやすいだろうって言ってたけど……」
「あたしがきいてくるじゃん!」
外出用の頭巾と袴を身に着けた翠寿が右手を挙げる。
「じゃあ、お願いしようかな。五人を船坂まで運んでくれる舟を捜してきて」
「わかったです! いってきます!」




