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12 須玉匠のところへ出発するのはいつにする?

「そ、それより須玉匠のところへ出発するのはいつにする?」


「今すぐ出ようか。せっかく紀美野さんにお酒を用意してもらったんだし」


「これから?」


「善は急げって言うしね。城下町と船坂町ふなさかのまちの間ってたくさんの舟が行き来しているんでしょ。それに乗れば今日中に着けるんじゃないかな」


「早駕籠は高いし、駕籠が揺れるとせっかくのお酒が台無しになっちゃうだろうから清正君の言う通り舟がいいかもね」


「馬を使えばいいのでは?」


 今まで会話に参加していなかった筒針さんの指摘に思わず苦笑いが出る。


「それはえーと……清正君は馬に乗れないそうなので……」


「実はそうなんですよ。こんなことなら時間があるうちに澪に乗り方を習っておくんだった。今回のことが終わったら教えてよ」


「澪さまはおうまさんにのるのじょーずだらぁ」


 にっこりと笑う澪が翠寿の頭を撫でる。


「もちろん、いいわよ」


「そろそろ朝とれた魚を船坂から運んで来る舟が到着すると思います。ですから下りの舟も探しやすいと思いますよ」


「丁度いいですね。みんなはすぐに出発できそう?」


 葵と翠寿には前から話をしてあったから問題はなかった。


「私も大丈夫。紅寿もお風呂の支度がすんだら急ぎの仕事はなかったんじゃないかな」


「不動はどうだろう。一緒に行けそうかな」


 控えめに立っている結に聞いてみる。


「申し訳ございません。今しばらくは操心館から離れられそうにないと聞いています」


「仕方ないね。不動には一日も早く紅樺の君と連れ合いになってもらわないといけないし」


 今はそちらに全力を尽くしてもらおう。


「じゃあ、翠寿。紅寿に出発するよって伝えてくれるかな」


「わかったです!」


 空を見上げた翠寿は「おぉ~ん」と遠吠える。

 しばらくするとたすき掛けた紅寿が小走りでやってきた。


「人狼はこうやって連絡を取り合えるのですな」


 感心したように筒針さんが呟く。


「簡単なことしか伝えられないそうですけどね」


 風に乗れば十キロぐらい先にまで声を届かせることができるそうだ。


 現在、伝令役を担う人狼には「敵襲あり。場所どこそこ。数いくつ」を〈遠吠え〉で伝えてもらうようにしている。


 ちなみに〈遠吠え〉の技能が使えなくても事前に決めておけば誰でも内容を理解することは可能だ。

 ただし〈遠吠え〉に比べると情報量は格段に落ちてしまうけど。


「じゃあ、支度を済ませたら出発しよう。僕は部屋へ戻って勾玉を取ってくるよ。少し待っていただければ城下町までの道中をご一緒しますけど、どうしますか」


「お心遣いありがとうございます。せっかくですが、これから仕込みをしに笠置屋へ行かなければなりませんのでお先に失礼させていただきます」


「そうですか。船坂から戻ってきたらまたお店にお邪魔させていただきますね」


「はい。ご来店をお待ちしております」


 紀美野さんが頭を下げると髪に差した綺麗な簪が目に入った。


「今回も姫様には告げずに出るおつもりですかな」


 一瞬言葉に詰まる。

 そんな僕を見下ろす筒針さんはニヤニヤと笑っている。


「でしたら筒針さんからほの香姫へお伝え下さい」


「おっと、そう来ますか」


「何も言わないよりは後がマシになりそうですから、よろしくお願いします」


「これは藪蛇でしたなぁ。しかし自分から踏み込んだ感もありますので、その件につてはお引き受け致しましょう。……いいところ一日ですがね」


 おまけに時間稼ぎもしてくれるらしい。筒針さんはいい男だった。

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